侵襲的手術に伴い施行する虚血コンディショニングは、総じて死亡リスクには影響しないことが、オーストラリア・シドニー大学のLouisa Sukkar氏らが、無作為化試験の被験者データを臨床設定を問わずに包含して評価したシステマティックレビューとメタ解析の結果、示された。また、脳卒中と急性腎障害(AKI)への影響については、発生を低下する可能性が示唆されたが、エビデンスの質が低かった。虚血コンディショニングの役割については多くの臨床試験で検討されているが、アウトカムに及ぼす影響については不明であった。今回の結果を踏まえて著者は、「虚血コンディショニングの採用は、質が高く統計的検出力が良好なエビデンスの下で有益性があることが示されない限り、ルーティンに用いることは推奨できない」と述べている。BMJ誌2016年11月7日号掲載の報告。
システマティックレビューとメタ解析で検討
検討は、Medline、Embase、Cochrane databases、International Clinical Trials Registryを検索(発行開始~2015年10月時点まで)して行われた。虚血コンディショニングの臨床的アウトカムへの影響を比較検討していたすべての無作為化試験を適格とし、2人の論文執筆研究者がそれぞれ、各試験報告からデータ(被験者のベースライン特性、試験特性、アウトカム)を抽出した。複数介入の報告は、それぞれ異なる試験とみなした。
ランダム効果モデルを用いて、全死因死亡とその他の事前規定の特異的臨床的アウトカム(心筋梗塞・脳卒中・心血管死の複合など複合心血管イベント、心筋梗塞、脳卒中、新規の不整脈、AKIなど)の発生率を算出。全死因死亡と副次的アウトカム(p<0.1)について、GRADE評価ツールを用いて試験の質を調べ、事前規定の被験者特性をメタ回帰法とCochran C検定法にて調べ、Copenhagen Trial Unit法にて試験の逐次解析を行った。
全死因死亡への影響は認められず、脳卒中とAKIについては抑制効果あり?
検索の結果、85本の報告、無作為化試験89件、被験者1万3,800例のデータが特定できた。被験者の年齢中央値は80歳(四分位範囲:60~149)、フォローアップの計画期間は1ヵ月(範囲:1日~72ヵ月)であった。
結果、虚血コンディショニングは、臨床設定や被験者介入関連の特性を問わず全死因死亡への影響は認められなかった(68比較、424イベント、被験者1万1,619例、リスク比[RR]:0.96、95%信頼区間[CI]:0.80~1.16、p=0.68、エビデンスの質中程度)。
一方、副次的アウトカムのうち、脳卒中(18試験、5,995例、149イベント、RR:0.72、95%CI:0.52~1.00、p=0.048、エビデンスの質は非常に低い)、AKI(36試験、8,493例、1,443イベント、RR:0.83、95%CI:0.71~0.97、p=0.02)については、虚血コンディショニングによって発生が有意に減少する可能性が示唆された。しかし、そのベネフィットは、非外科的な設定に限定され、AKIについては軽度のエピソードに限られるようであった。