ハイリスク心臓手術において、術中出血に対しフィブリノゲン濃縮製剤を投与しても、術中出血量は減少しなかった。オランダ・ユトレヒト大学メディカルセンターのSuleyman Bilecen氏らが、術中出血に対するフィブリノゲン濃縮製剤の効果を検証した無作為化臨床試験の結果を報告した。フィブリノゲン濃縮製剤は、凝固障害を回復させ術中出血を減らす可能性があり、心臓手術中の出血管理に使用されている。しかし、これまで行われた心臓外科における無作為化臨床試験は2件のみで、フィブリノゲン濃縮製剤の有効性に関するエビデンスは確立されていなかった。JAMA誌2017年2月21日号掲載の報告。
術中出血を呈した患者で、投与後から手術終了までの出血量を評価
研究グループは2011年2月~2015年1月に、オランダ・Isala Zwolle病院にて無作為化比較二重盲検プラセボ対照試験を実施した。
対象は、18歳以上で、待機的ハイリスク心臓手術(冠動脈バイパス術[CABG]と弁修復術/置換術の併用、複数弁置換術、大動脈基部再建術、上行大動脈/大動脈弓再建術)を受け、術中出血(胸腔から吸引される血液量が5分間で60~250mL)を呈した患者120例である。フィブリノゲン群(60例)またはプラセボ群(60例)に無作為に割り付け、前者では投与後の血漿フィブリノゲン濃度2.5g/Lを目標に、フィブリノゲン濃縮製剤を無菌水50mLで希釈して静脈投与し、後者はアルブミン2gを生理食塩水50mLで希釈して静脈投与した。
主要評価項目は、介入(人工心肺離脱後の試験薬投与)から閉胸までの出血量(mL)。また、フィブリノゲン濃縮製剤の安全性および忍容性について評価するため、30日院内死亡、心筋梗塞、脳血管イベント/一過性脳虚血性発作、腎機能障害/腎不全、静脈血栓塞栓症、肺塞栓症、手術合併症などを解析した。
出血量はフィブリノゲン濃縮製剤とプラセボで有意差なし
120例(平均[±SD]71±10歳、女性37例[31%])中、CABG+弁修復術/置換術施行例が72%を占め、人工心肺時間(平均±SD)は200±83分であった。
主要評価項目の出血量中央値は、フィブリノゲン群50mL(四分位範囲[IQR]:29~100mL)、プラセボ群70mL(IQR:33~145mL)で(p=0.19)、絶対差は20mL(95%CI:-13~35mL)であった。
有害事象は全体で脳卒中/一過性脳虚血発作6例、心筋梗塞4例、死亡2例、腎機能障害/腎不全5例、術後5日以内の再開胸術9例を認めた。このうちそれぞれ4例、3例、2例、3例および4例がフィブリノゲン群であり、有害事象はフィブリノゲン群のほうが多かった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)