米国では、ネズミのまん延が、都市近郊の低所得層居住区に特有の問題となっており、ネズミに感作した喘息児がネズミ由来アレルゲンに曝露すると、感作あるいは曝露がない患児に比べ喘息症状の発現頻度が高いとの報告がある。また、専門家が行う総合的有害生物管理(integrated pest management:IPM)による介入は、ネズミ由来アレルゲン濃度を低下させることが知られている。そこで、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のElizabeth C Matsui氏ら研究グループは、有害生物管理教育へのIPMの併用による喘息症状の抑制効果を検証する無作為化臨床試験(MAAIT試験)を行った。研究の成果は、JAMA誌2017年3月6日号に掲載された。
361例で喘息症状の発現日数を評価
MAAIT試験の対象は、ボストン市およびボルチモア市の都市部に居住する年齢5~17歳のネズミ感作およびネズミ由来アレルゲン曝露がみられる持続型喘息の青少年で、前年に増悪がみられた患者であった。
被験者は、専門家によるIPMと有害生物管理教育を受ける群または有害生物管理教育のみを受ける群にランダムに割り付けられ、1年間の治療が行われた。IPMには、殺鼠剤の使用、侵入口となり得る穴の封鎖、捕獲罠の設置、アレルゲン曝露源の除去を目的とする清掃、アレルゲンが確認されたマットレスと枕への防御カバーの装着、移動式空気清浄機が含まれた。
3ヵ月ごとにネズミの発生状況を評価し、まん延が持続または再発生した場合は治療を追加した。すべての被験者が、捕獲罠や穴の封鎖、清掃法に関する資料や実際のやり方の説明書などを用いた有害生物管理教育を受けた。
主要評価項目は、6、9、12ヵ月時の直近2週間における3つの症状(喘息による活動性の減弱、就寝中の喘息症状による覚醒、咳嗽・喘鳴・胸部圧迫感の発現)のうち、最も多い症状の発現日数とした。
2010年5月~2014年8月に、361例(平均年齢:9.8[SD 3.2]歳、女児:38%)が登録された。IPM追加群に181例、有害生物管理教育単独群には180例が割り付けられ、それぞれ166例、168例が主要評価項目の解析に含まれた。
最大症状発現日数に差はない
全体として、低所得層とマイノリティが多くを占め、直近2週間の3症状の最大発症日数中央値は3.0日、前年の喘息による緊急受診中央値は2回であった。
有害事象は、IPM追加群が4件、有害生物管理教育単独群は2件認められたが、いずれもデータ収集作業に関連するものであった。
6、9、12ヵ月時の最大症状発現日数中央値は、IPM追加群が2.0日(IQR:0.7~4.7)、有害生物管理教育単独群は2.7日(同:1.3~5.0)であり、両群間に統計学的に有意な差は認めなかった(p=0.16)。また、追加群の単独群に対する症状発現率比は0.86(95%信頼区間[CI]:0.69~1.06)だった。
副次評価項目(3つの個々の症状、運動時の症状、短時間作用型β受容体刺激薬の使用、緊急受診、入院、救急診療部受診、肺機能、経口ステロイド薬の短期投与など)は、いずれも両群間に有意な差はなかった。
また、寝室のある階のネズミ由来アレルゲンが75%以上減少した患者の割合(IPM追加群:63% vs.有害生物管理教育単独群:58%、p=0.45)および90%以上減少した患者の割合(46% vs.41%、p=0.44)に、有意差はみられなかった。空中および寝台塵中のネズミ由来アレルゲンの減少についても、同様の結果であった。
著者は、「有害生物管理教育にIPMを併用しても、有害生物管理教育単独に比べ6~12ヵ月時の最大症状発現日数は改善しなかった」とまとめ、「IPMによる喘息症状の抑制には、住居内のネズミ由来アレルゲンの実質的な減少は関連しない可能性が示唆される」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)