局所前立腺がんの3つの治療戦略(根治的前立腺全摘除術、外部照射療法、小線源療法)は、有害事象の発現パターンがさまざまであり、積極的監視療法と比較して2年後のQOLにほとんど差はないことが、米国・ノースカロライナ大学チャペルヒル校のRonald C Chen氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2017年3月21日号に掲載された。前立腺がん患者の余命は延長しており、個々の治療選択肢のQOLへの影響は、患者の意思決定プロセスにおける中心的な関心事項となっている。
QOLを積極的監視と比較する前向きコホート試験
本研究は、根治的前立腺全摘除術(RP)、外部照射療法(EBR)、小線源療法(BT)と積極的監視療法(AS)のQOLを比較する地域住民ベースの前向きコホート試験(米国患者中心アウトカム研究所[PCORI]などの助成による)。
North Carolina Central Cancer Registry(NCCCR)との共同で、2011年1月~2013年6月に前立腺がんと新規診断された男性1,141例を登録した。診断から登録までの期間中央値は5週間で、解析に含まれた最終フォローアップ日は2015年9月9日だった。
ベースライン(治療前)、治療後3、12、24ヵ月時に、Prostate Cancer Symptom Indices(PCSI)を用いてQOLの評価を行った。PCSIは4つのドメイン(性機能障害[5項目]、尿路閉塞・刺激[5項目]、尿失禁[3項目]、腸障害[6項目])から成り、それぞれのドメインを0~100点(点数が高いほど機能障害が重度)でスコア化した。
AS群が314例(27.5%)、RP群が469例(41.1%)、EBR群が249例(21.8%)、BT群は109例(9.6%)であった。RP群の86.6%がロボット手術を、EBR群の94.8%が強度変調放射線治療(IMRT)を受けた。ベースラインの各群間の人口統計学的背景因子およびQOLの差は、傾向重み付け(propensity weighting)を行って最小化した。
24ヵ月時の臨床的に意味のある増悪は、RP群の尿失禁のみ
ベースラインの傾向重み付け後の4群の年齢中央値は66~67歳、白人が77~80%を占め、QOLスコアの平均値は性機能障害が41.6~46.4点、尿路閉塞・刺激が20.8~22.8点、尿失禁が9.7~10.5点、腸障害は5.7~6.2点だった。
3ヵ月時の性機能障害の平均スコアのAS群との差は、RP群が36.2点(95%信頼区間[CI]:30.4~42.0)、EBR群が13.9点(6.7~21.2)、BT群は17.1点(7.8~26.6)であり、いずれもAS群に比べ有意に増悪していた(臨床的に意味のある差はRP群のみ)。
これ以外に、3ヵ月時の平均スコアが、AS群に比べ臨床的に意味のある差をもって有意に増悪したのは、EBR群とBT群の尿路閉塞・刺激(それぞれ、AS群との差:11.7点、95%CI:8.7~14.8、20.5点、15.1~25.9)、RP群の尿失禁(33.6点、27.8~39.2)、EBR群の腸障害(4.9点、2.4~7.4)であった。
12ヵ月時の平均スコアが、AS群に比べ臨床的に意味のある差をもって有意に増悪していたのは、RP群の性機能障害(AS群との差:27.6点、95%CI:21.8~33.4)と尿失禁(18.2点、12.9~23.5)で、24ヵ月時にはRP群の尿失禁(15.4点、8.9~21.9)のみとなり、性機能障害(17.1点、10.9~23.3)については、有意差はあるものの臨床的に意味のある差はなくなっていた。
著者は、「これらの知見は、患者の好みに基づく治療法の決定の推進に使用できると考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)