心血管イベントの高リスク患者の目標血圧は?/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2017/04/14

 

 心血管イベントのハイリスク患者では、治療により収縮期血圧120mmHg未満達成で心筋梗塞および脳卒中を除く心血管死のリスクが増加し、拡張期血圧70mmHg未満達成ではこれらに加え心筋梗塞および心不全による入院のリスクも増加する。ハイリスク患者を対象としたONTARGET試験およびTRANSCEND試験の2次解析で、治療により血圧を過度に低下させると心血管疾患イベントのリスクが高まることが確認された。ドイツ・ザールラント大学のMichael Bohm氏らが報告した。これまでも目標血圧の妥当性が検証されてきたが、著者は今回の結果について、「逆の因果関係(併存疾患による血圧低下、死亡率上昇)の影響を除外できないものの、可能な限り血圧を低くすることは、ハイリスク患者にとっては必ずしも最適(至適)ではないことを示唆している」とまとめている。Lancet誌オンライン版2017年4月5日号掲載の報告。

ONTARGET試験/TRANSCEND試験の約3万例のデータを解析
 研究グループは、心血管疾患の既往歴がある55歳以上のハイリスク患者(患者の70%は高血圧症)を対象としたONTARGET試験/TRANSCEND試験のデータ(40ヵ国733施設の計3万937例、追跡期間中央値56ヵ月)を用い、治療中に達成した平均血圧、ベースラインの血圧、心血管死・心筋梗塞・脳卒中・心不全による入院の複合アウトカムイベント発生前の最後の治療時の血圧と、複合アウトカムの各イベント、ならびに全死因死亡との関連を、Cox回帰分析、ANOVA、χ2で解析した。

 ONTARGET試験(2001年12月1日~2008年7月31日)ではACE阻害薬に忍容性がある2万5,127例がラミプリル群(10mg/日投与、8,407例)、テルミサルタン群(80mg/日投与、8,386例)、または両剤の併用投与群(8,334例)のいずれかに、TRANSCEND試験(2001年11月1日~2004年5月30日)ではACE阻害薬に忍容性のない5,810例がテルミサルタン群(80mg/日投与、2,903例)またはプラセボ群(2,907例)に、それぞれ無作為に割り付けられた。

収縮期血圧120mmHg未満達成で、心血管死のリスクが増加
 ベースラインの収縮期血圧140mmHg以上群では、120~140mmHg未満群に比べすべてのアウトカムの発生率が増加した。また、ベースラインの拡張期血圧70mmHg未満群は、70mmHg以上のすべてのカテゴリー集団と比較して、ほとんどのアウトカムのリスクが最も高かった。

 治療で収縮期血圧120mmHg未満に達した患者群(4,052例)は、120~140mmHgの患者群(1万6,099例)と比較し、複合心血管アウトカム(補正ハザード比[HR]:1.14、95%信頼区間[CI]:1.03~1.26)、心血管死(HR:1.29、95%CI:1.12~1.49)、全死因死亡(HR:1.28、95%CI:1.15~1.42)のリスクが増加した。心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院に関しては、有益性や有害性は確認されなかった。

 達成した平均収縮期血圧のほうが、ベースラインあるいはイベント発生前の収縮期血圧よりもアウトカムを正確に予測でき、脳卒中を除く複合アウトカム、心血管死、全死因死亡のリスクは約130mmHgで最も低下し、110~120mmHgでは増加した。

 また、治療中の平均拡張期血圧70mmHg未満の患者群(5,352例)について、70~80mmHgの患者群(1万4,305例)と比較し、複合主要アウトカム(HR:1.31、95%CI:1.20~1.42)、心筋梗塞(HR:1.55、95%CI:1.33~1.80)、心不全による入院(HR:1.59、95%CI:1.36~1.86)、全死因死亡(HR:1.16、95%CI:1.06~1.28)のリスク増加との関連が認められた。リスクが最も低かったのは、治療前および治療中の平均拡張期血圧が約75mmHgであった。

(医学ライター 吉尾 幸恵)