高齢者の術後せん妄予防にケタミン、悪影響の可能性/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2017/06/13

 

 高齢者の術後せん妄予防目的のケタミン投与は、効果がないばかりか、幻覚やナイトメア症状を増大する可能性が、米国・セントルイス・ワシントン大学のMichael S. Avidan氏らによる国際多施設共同二重盲検無作為化試験「PODCAST」の結果、示された。せん妄は頻度が高く重大な術後合併症である。一方で、術後疼痛を軽減するために周術期静脈内ケタミンの投与がしばしば行われており、同投与のせん妄予防効果を示唆するエビデンスが報告されていた。研究グループは、高齢者の術後せん妄予防に対するケタミンの有効性評価を主要目的に今回の試験を行った。Lancet誌オンライン版2017年5月30日号掲載の報告。

プラセボ vs. 0.5mg/kgケタミン vs. 1.0mg/kgケタミンの無作為化試験
 PODCAST(Prevention of Delirium and Complications Associated with Surgical Treatments)試験は4ヵ国10施設(米国6、カナダ2、韓国1、インド1)で、全身麻酔下にて心臓または非心臓の大手術を受ける60歳以上の患者を対象に行われた。コンピュータ無作為化シーケンス法で被験者を1対1対1の割合で3群に割り付け、それぞれ術前の麻酔導入後に、(1)プラセボ(生理食塩水)、(2)低用量ケタミン(0.5mg/kg)、(3)高用量ケタミン(1.0mg/kg)を投与した。参加者、臨床医、研究者に割り付けは明らかにされなかった。

 せん妄の評価は、術後3日間、Confusion Assessment Method(CAM)を用いて1日2回行われた。解析はintention-to-treat法にて行われ、有害事象についても評価した。

3群間のせん妄発生率に有意差なし、ケタミン群で幻覚、ナイトメアが増大
 2014年2月6日~2016年6月26日に、1,360例の患者が試験適格の評価を受け、672例(平均年齢70歳、女性38%)が無作為に3群に割り付けられた(プラセボ群222例、低用量ケタミン群227例、高用量ケタミン群223例)。

 術後3日間のせん妄発生率は、プラセボ群19.82%、低用量ケタミン群17.65%、高用量ケタミン群21.30%であった。せん妄発生率について、プラセボ群と低・高用量ケタミン複合群(19.45%)の群間に有意差は認められなかった(絶対差:0.36%、95%信頼区間[CI]:-6.07~7.38、p=0.92)。また、3群間の有意差も認められないことが確認された(Cochran-Armitage検定のp=0.80)。ロジスティック回帰モデルの評価では、ケタミンの低用量群と高用量群がそれぞれ、術後せん妄発生の低下を独立して予測することが示されたが、有意差は認められず、さらに潜在的交絡因子で補正後、せん妄の発生までの時間、期間、重症度について3群間で有意差は認められなかった。同評価では、60歳超、心臓手術、うつ病歴がせん妄の独立予測因子として示唆されている。

 有害事象(心血管系、腎機能、感染症、消化管出血)の発生は、個別にみても(それぞれのp>0.40)、総体的にみても(プラセボ群36.9%、低用量ケタミン群39.6%、高用量ケタミン群40.8%[p=0.69])、3群間で有意差はなかった。

 一方で、プラセボ群と比べてケタミン群の患者で、術後の幻覚症状(プラセボ群18%、低用量ケタミン群20%、高用量ケタミン群28%[p=0.01])、ナイトメア(8%、12%、15%[p=0.03])が有意に増大したことが報告された。