BRCA1またはBRCA2遺伝子変異の保因状況は、乳がん、卵巣がん、対側乳がんのリスクを予測し、リスク評価では家族歴および変異位置が重要となる可能性があることが、英国・ケンブリッジ大学のKaroline B. Kuchenbaecker氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2017年6月20日号に掲載された。これまでに行われた後ろ向き研究では、BRCA1変異保因女性が70歳までに乳がんを発症するリスクは40~87%、BRCA2変異保因女性は27~84%であり、卵巣がんのリスクはそれぞれ16~68%、11~30%と報告されている。このような大きなばらつきが生じる原因として、サンプリング法、対象集団や遺伝子変異の特性、分析法の違いなどが挙げられ、後ろ向き研究におけるバイアスの可能性が指摘されており、これらの問題を回避する前向き研究の実施が望まれてきた。
変異保因者のリスクを前向きコホート研究で検証
研究グループは、
BRCA1/BRCA2変異保因者における乳がん、卵巣がん、対側乳がんの年齢別のリスクを予測し、家族歴や変異位置のリスクへの影響を評価する前向きコホート研究を行った(英国がん研究所などの助成による)。
対象は、3つのコンソーシアム(International
BRCA1/2 Carrier Cohort Study[IBCCS]、Breast Cancer Family Registry[BCFR]、Kathleen Cuningham Foundation Consortium for Research into Familial Breast Cancer[kConFab])の参加者(1997~2011年)から選出した
BRCA1変異陽性女性6,036例、
BRCA2変異陽性女性3,820例であった。
ベースライン時に、4,810例が乳がん、卵巣がんまたは双方に罹患しており、5,046例は罹患していなかった。フォローアップは2013年12月に終了し、フォローアップ期間中央値は5年だった。乳がん、卵巣がん、対側乳がんの年間発生率、標準化罹患比(SIR)、累積リスクの評価を行った。
個別カウンセリングに家族歴と変異位置を含めるべき
乳がんの解析の対象となった女性は3,886例(年齢中央値:38歳、IQR:30~46歳)、卵巣がんは5,066例(38歳、31~47歳)、対側乳がんは2,213例(47歳、40~55歳)であった。フォローアップ期間中に、426例が乳がん、109例が卵巣がん、245例が対側乳がんと診断された。
80歳時の累積乳がんリスクは、
BRCA1変異保因者が72%(95%信頼区間[CI]:65~79)、
BRCA2変異保因者は69%(95%CI:61~77)であった。乳がん罹患率は、
BRCA1変異保因者では30~40歳までに、
BRCA2変異保因者では40~50歳までに急速に上昇し、いずれの保因者もその後80歳まで一定の割合(20~30/1,000人年)で徐々に増加し続けた。
80歳時の累積卵巣がんリスクは、
BRCA1変異保因者が44%(95%CI:36~53)、
BRCA2変異保因者は17%(95%CI:11~25)であった。
乳がん診断後20年時の累積対側乳がんリスクは、
BRCA1変異保因者が40%(95%CI:35~45)と、
BRCA2変異保因者の26%(95%CI:20~33)と比較して有意に高かった(ハザード比[HR]:0.62、95%CI:0.47~0.82、p=0.001)。
乳がんリスクは、第1~2度近親の
BRCA1変異保因者0人に対する2人以上の場合のHRは1.99(95%CI:1.41~2.82、傾向検定:p<0.001)、同様に
BRCA2変異のHRは1.91(1.08~3.37、p=0.02)であり、いずれも保因者数が多くなるほど有意に増加した。
また、乳がんリスクは、
BRCA1変異では変異の位置がc.2282~c.4071の領域外にある場合に高く(HR:1.46、95%CI:1.11~1.93、p=0.007)、
BRCA2変異ではc.2831~c.6401の領域外で高かった(HR:1.93、95%CI:1.36~2.74、p<0.001)。
著者は、「個別の患者のカウンセリングには、家族歴と変異位置を含めるべきと考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)