プライマリケア施設における前立腺特異抗原(PSA)検査の紹介は、前立腺がんの検出率を改善するが、前立腺がん特異的な10年死亡には影響を及ぼさないことが、英国・ブリストル大学のRichard M Martin氏らが行ったCAP試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2018年3月6日号に掲載された。PSAスクリーニングは、過剰検出と過剰治療による弊害が、死亡リスクの低減またはQOLのベネフィットを上回る可能性があるため、議論が続いている。
573施設、40万例以上のクラスター無作為化試験
CAPは、PSA検査を用いたスクリーニングによる単回介入が、前立腺がんの検出および前立腺がん特異的死亡に及ぼす効果を評価するプライマリケア・ベースのクラスター無作為化試験(Cancer Research UKなどの助成による)。
2001~09年の期間に、イングランドとウェールズの99地域のプライマリケア施設が、年齢50~69歳の男性患者について、PSA検査を受けるために検査施設を紹介する群(介入群)または標準的な診療のみを行う群(対照群)に無作為に割り付けられた。介入群のうち、検査結果がPSA値≧3ng/mLの患者には前立腺生検を行うこととした。
主要アウトカムは、フォローアップ期間中央値10年時の前立腺がん特異的死亡であった。副次アウトカムは、同定された前立腺がんのStageおよびGleason分類(2~10点、スコアが高いほど予後が不良)、全死因死亡、操作変数分析によるPSA検査施設の受診と前立腺がん死の因果関係などであった。フォローアップは2016年3月31日に終了した。
911施設が無作為化の対象となり、573施設(73%、介入群:271施設、対照群:302施設)が解析に含まれた。無作為化の対象となった41万5,357例の男性のうち、40万8,825例(98%、介入群:18万9,386例、対照群:21万9,439例)について解析を行った。
住民ベース・スクリーニングに単回PSA検査は支持されない
ベースラインの年齢中央値は、介入群が58.5歳(IQR:54.3~63.5)、対照群は58.6歳(54.3~63.5)であり、都市部の居住者の割合は両群とも86%であった。
介入群のうち、実際にPSA検査施設を受診したのは7万5,707例(40%)で、PSA検査を受けたのは6万7,313例(36%)であり、適切な検査結果が得られたのは6万4,436例であった。このうち6,857例(11%)がPSA値3~19.9ng/mLであり、前立腺生検を受けたのは5,850例(85%)だった。
フォローアップ期間中央値10年時に、介入群の549例(0.30/1,000人年)、対照群の647例(0.31/1,000人年)が前立腺がんで死亡し、両群の前立腺がん特異的死亡率に、有意な差は認めなかった(死亡率の差:-0.013/1,000人年、95%信頼区間[CI]:-0.047~0.022、死亡率比[RR]:0.96、95%CI:0.85~1.08、p=0.50)。
一方、前立腺がんと診断された患者の割合は、介入群が4.3%(8,054例)と、対照群の3.6%(7,853例)に比べ有意に高かった(RR:1.19、95%CI:1.14~1.25、p<0.001)。また、Gleasonスコア≦6の低リスク前立腺がんの同定の割合は、介入群が1.7%(3,263/18万9,386例)と、対照群の1.1%(2,440/21万9,439例)に比べ有意に高かった(1,000例当たりの差:6.11、95%CI:5.38~6.84、p<0.001)。
全死因死亡数は、介入群が2万5,459例、対照群は2万8,306例であり、両群間に有意な差は認めなかった(RR:0.99、95%CI:0.94~1.03、p=0.49)。また、操作変数分析では、アドヒアランスで補正した因果関係のRRは0.93(95%CI:0.67~1.29、p=0.66)であり、PSA検査施設への受診が前立腺がん死を抑制するとのエビデンスは得られなかった。
著者は、「より長期のフォローアップを進めているが、これらの知見は住民ベースのスクリーニングにおける単回PSA検査を支持しない」としている。
(医学ライター 菅野 守)