膵がんの素因遺伝子や、その変異と関連する膵がんのリスクはよく知られていない。米国・メイヨー・クリニックのChunling Hu氏らは、膵がんと関連のある6つの遺伝子変異を同定し、これらの変異は全膵がん患者の5.5%にみられ、そのうち膵がんの家族歴のある例が7.9%、ない例は5.2%であることを示した。研究の成果は、JAMA誌2018年6月19日号に掲載された。遺伝学的に膵がんの素因を有する集団は、遺伝子検査を用いた早期発見により、ベネフィットを得る可能性があるという。
約3,000例を含む症例対照研究
研究グループは、がん素因遺伝子の生殖細胞系列変異と、膵がんのリスクの増加の関連を検証する症例対照研究を行った(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。
2000年10月12日~2016月3月31日の期間に、膵管腺がんと診断されてメイヨー・クリニックのレジストリに登録され、末梢血リンパ球サンプルからゲノムDNAが抽出された患者3,030例を解析に含めた。公的なゲノム集成データベースからエクソームシーケンスのデータが得られた12万3,136例と、Exome Aggregation Consortiumのデータベースに登録された5万3,105例を対照とした。
遺伝性がんの遺伝子検査用に開発されたマルチプレックスPCRベースのパネルを用いてシーケンシングを行い、21のがん素因遺伝子のコーディング領域における生殖細胞系列変異を同定した。膵がん患者と対照群の遺伝子変異の頻度を比較することで、遺伝子と膵がんの関連を評価した。がん素因遺伝子の病的変異の保有およびがんの既往歴、家族歴の有無別に解析を行った。
CDKN2A変異は膵がんリスクが12倍以上に
膵がん患者3,030例のうち、非ヒスパニック系白人が95.6%、女性が43.2%を占めた。診断時の平均年齢は65.3(SD 10.7)歳で、37.2%が70歳以上であった。がんの家族歴(第1、2度近親者)は、膵がんが11.3%に認められ、乳がんが22.3%、大腸がんが16.9%、卵巣がん以外の婦人科がんが5.3%、卵巣がんが5%にみられた。
21の膵がん素因遺伝子の候補のうち19に関して、生殖細胞系列の病的変異が249例(8.2%、253個)に認められた。最も頻度の高い変異は
ATM(69例、2.28%)であり、次いで
BRCA2(59例、1.95%)、
CHEK2(33例、1.09%)、
BRCA1(18例、0.59%)、
PALB2(12例、0.40%)、
CDKN2A(10例、0.33%)と続いた。
対照群と比較して、膵がんと関連のある遺伝子の変異が6つ同定された。最も関連が強い変異は
CDKN2A(膵がん群:0.30% vs.対照群:0.02%、オッズ比[OR]:12.33、95%信頼区間[CI]:5.43~25.61、p<0.001)であり、次いで
TP53(0.20 vs.0.02%、6.70、2.52~14.95、p<0.001)、
MLH1(0.13 vs.0.02%、6.66、1.94~17.53、p=0.01)、
BRCA2(1.90 vs.0.30%、6.20、4.62~8.17、p<0.001)、
ATM(2.30 vs.0.37%、5.71、4.38~7.33、p<0.001)、
BRCA1(0.60 vs.0.20%、2.58、1.54~4.05、p=0.002)の順だった。
全体として、膵がん患者3,030例中167例(5.5%)が、これら6つの素因遺伝子のうち1つに病的変異を有していた。膵がんの家族歴のある343例中27例(7.9%)、家族歴のない2,687例中140例(5.2%)に、6つの素因遺伝子のうち1つに病的変異がみられた(p=0.06)。
6つの膵がん素因遺伝子変異と有意な関連がみられた因子として、進行したStage(p=0.04)、他の原発がんの既往歴(p=0.009)、乳がんの家族歴(p=0.01)、一般的な上皮がんの家族歴(p=0.04)が挙げられ、変異を有する集団は診断時の年齢が若かった(62.5 vs.65.5歳、p<0.001)。また、これらの変異の有無と全生存には、統計学的に有意な関連はみられなかった(p=0.09)。
著者は、「他の集団における再現性を評価するために、さらなる検討を要する」としている。
(医学ライター 菅野 守)