中年期に飲酒しなかった集団および中年期以降に過度な飲酒を続けた集団は、飲酒量が適度な場合に比べ認知症のリスクが高まることが、フランス・パリ・サクレー大学のSeverine Sabia氏らが行った「Whitehall II試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2018年8月1日号に掲載された。非飲酒と過度な飲酒は、いずれも認知機能に有害な影響を及ぼすとされるが、認知症の発症予防や遅延に関する現行のガイドラインには、エビデンスが頑健ではないため、過度の飲酒は含まれていないという。また、研究の多くは、老年期のアルコール摂取を検討しているため生涯の飲酒量を反映しない可能性があり、面接評価で認知機能を検討した研究では選択バイアスが働いている可能性があるため、結果の不一致が生じている。
英国公務員のデータを用いたコホート研究
Whitehall II試験は、ロンドン市に事務所のある英国の公務員を対象とした前向きコホート研究であり、1985~88年に35~55歳の1万308例(男性:6,895例、女性:3,413例)が登録され、4~5年ごとに臨床的な調査が行われている(米国国立老化研究所[NIA]などの助成による)。
研究グループは、今回、認知症とアルコール摂取の関連を評価し、この関連への心血管代謝疾患(脳卒中、冠動脈心疾患、心房細動、心不全、糖尿病)の影響を検討した。
アルコール摂取量は、1985~88年、1989~90年、1991~93年(中年期)の3回の調査の平均値とし、非飲酒、1~14単位/週(適度な飲酒)、14単位超/週(過度な飲酒)に分類した。中年期のアルコール摂取を評価した集団の平均年齢は50.3歳だった。
また、1985~88年から2002~04年の5回の調査に基づき、17年間のアルコール摂取の推移を5つのパターン(長期に非飲酒、飲酒量減少、長期に飲酒量が1~14単位/週、飲酒量増加、長期に飲酒量が14単位超/週)に分けて検討した。
1991~93年の調査では、CAGE質問票(4項目、2点以上で依存性あり)を用いてアルコール依存症の評価を行った。さらに、1991~2017年の期間におけるアルコール関連慢性疾患による入院の状況を調べた。
飲酒量が減少した集団もリスク上昇
平均フォローアップ期間は23年であり、この間に397例が認知症を発症した。認知症診断時の年齢は、非飲酒群が76.1歳、1~14単位/週の群が75.7歳、14単位超/週の群は74.4歳であった(p=0.13)。
中年期に飲酒していない群は、飲酒量が1~14単位/週の群に比べ認知症のリスクが高かった(ハザード比[HR]:1.47、95%信頼区間[CI]:1.15~1.89、p<0.05)。14単位超/週の群の認知症リスクは、1~14単位/週の群と有意な差はなかった(1.08、0.82~1.43)が、このうち飲酒量が7単位/週増加した集団では認知症リスクが17%有意に高かった(1.17、1.04~1.32、p<0.05)。
CAGEスコア3~4点(HR:2.19、95%CI:1.29~3.71、p<0.05)およびアルコール関連入院(4.28、2.72~6.73、p<0.05)にも、認知症リスクの増加と関連が認められた。
中年期~初老期のアルコール摂取量の推移の検討では、飲酒量が長期に1~14単位/週の集団と比較して、長期に飲酒をしていない集団の認知症リスクは74%高く(HR:1.74、95%CI:1.31~2.30、p<0.05)、摂取量が減少した集団でも55%増加し(1.55、1.08~2.22、p<0.05)、長期に14単位超/週の集団では40%増加した(1.40、1.02~1.93、p<0.05)が、飲酒量が増加した集団(0.88、0.59~1.31)では有意な差はなかった。
中年期の非飲酒に関連する認知症の過剰なリスクは、フォローアップ期間中にみられた心血管代謝疾患によってある程度説明が可能であり、非飲酒群全体の認知症のHRが1.47(1.15~1.89)であったのに対し、心血管代謝疾患を発症しなかった非飲酒の集団では1.33(0.88~2.02)であった。
著者は、「ガイドラインで、14単位超/週のアルコール摂取を有害の閾値と定義する国があるが、今回の知見は、高齢になってからの認知機能の健康を増進するために、閾値を下方修正するよう促すもの」としている。
(医学ライター 菅野 守)