臨床医のバーンアウト(燃え尽き症候群)の推定有病率には、研究間に重大なばらつきが存在し、定義や評価法、試験の質には顕著な差異があることが、米国・ハーバード大学医学大学院のLisa S. Rotenstein氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、JAMA誌2018年9月18日号に掲載された。バーンアウトは、自己報告による職業関連症候群であり、医師とその患者に影響を及ぼす重要な因子としての認識が高まっている。医師のバーンアウトの有病率の正確な推定値は、保健施策において重大な意味を持つが、総合的な有病率は知られていないという。
定量的なデータの統合は不適切、研究を記述的に要約
研究グループは、バーンアウトの評価に使用される方法の特性を明らかにし、医師のバーンアウトの推定有病率を知るために、系統的レビューを行った(米国国立衛生研究所[NIH]の助成による)。
医学データベースを検索して、2018年6月1日までに出版された医師(研修中の医師は除く)のバーンアウトに関する論文を選出した。3人の研究者が独立に、バーンアウトの有病率および研究の特性に関するデータを抽出した。
メタ解析のために研究データを統合する計画であったが、統計学的な異質性だけでなく、研究デザインやバーンアウトの確定の方法にもばらつきが認められ、定量的なデータの統合は不適切と考えられた。
そこで、研究を記述的に要約し、定性的な評価を行った。主要アウトカムは、質問票で評価したバーンアウトの点有病率または期間有病率とした。
コンセンサスに基づく定義と、評価ツールの標準化が重要
バーンアウトの有病率のデータは、1991~2018年に45ヵ国で出版された182件(日本の3件の研究を含む)の研究(参加者10万9,628例)から抽出された。全研究の85.7%(156/182件)が、バーンアウトの評価にMaslach Burnout Inventory(MBI)を用いていた。
バーンアウト全体の推定有病率を報告した研究の割合は67.0%(122/182件)であり、バーンアウトの3つの下位尺度のうち、情緒的消耗感の推定有病率を報告した研究は72.0%(131/182件)、脱人格化は68.1%(124/182件)、個人的達成感の低下は63.2%(115/182件)と、一定していなかった。
また、バーンアウト全体およびその下位尺度の判定基準を満たすために、少なくとも142の独自の定義が使用されており、バーンアウトの構成要素に関して、文献上の重大な不一致が示された。さらに、研究によって、所定のカットオフ値などに基づくバーンアウトの定義も一定しておらず、著しく異なるカットオフの定義が使用されていた。
MBIに基づく評価法を用いた研究のうち、バーンアウト全体の有病率の定義は少なくとも47種が存在し、情緒的消耗感の定義は29種、脱人格化は26種、個人的達成感の低下も26種に及んでいた。
バーンアウト全体の有病率には、研究によって0~80.5%の幅があり、情緒的消耗感の有病率は0~86.2%、脱人格化は0~89.9%、個人的達成感の低下は0~87.1%の幅が認められた。
このように、研究全体におけるバーンアウトの定義および評価法の不一致により、バーンアウトと性別、年齢、地域、うつ症状などとの関連を、明確にすることはできなかった。
著者は、「これらの知見は、バーンアウトの有病率に関する明確な結論の提示を不可能にするものである」とし、「コンセンサスに基づくバーンアウトの定義の開発、および職業上の慢性的なストレスが医師に及ぼす影響を評価する測定ツールの標準化の重要性が浮き彫りとなった」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)
Rotenstein LS. et al. JAMA. 2018;320:1131-1150.