飲酒運転、基準値下げても交通事故は減少せず/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2018/12/28

 

 交通事故は世界中で公衆衛生上の大きな問題である。そのリスク因子として重要なのが死傷事故原因の大半を占める飲酒運転で、各国および司法権が及ぶ地域ではドライバーの血中アルコール濃度の規制が行われている。スコットランドでは、2014年12月5日に基準値が0.08g/dLから0.05g/dLへ引き下げられた。しかし、英国・グラスゴー大学のHoura Haghpanahan氏らが行った自然実験(natural experiment)の結果、規制変更によって、on-trade酒類(バーやレストランなどの飲食店)からの1人当たりのアルコール消費量はわずかに減少したが、交通事故減少は認められなかったという。著者は、「取り締まり(検問による呼気検査など)が不十分であったことが1つ考えられるが、ドライバーの血中アルコール濃度を厳しく規制するのみでは、交通事故は減少しないことが示唆された」と指摘し、「今回の結果は、同様にドライバーへの規制強化を考える国々にとって重要な政策的意義を持つものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2018年12月12日号掲載の報告。

基準値引き下げのスコットランドvs.未変更のイングランド・ウェールズ
 研究グループは、スコットランドと、イングランドおよびウェールズ(対照群)の交通事故とアルコール消費量に関するデータを用い、分割時系列デザインによる観察比較研究を行った。警察の事故記録からの週間交通事故数を収集し、自動交通量計数装置からのデータを分母として交通事故率を算出するとともに、市場調査データからoff-trade(スーパーやコンビニなどの小売店)での1週間のアルコール消費量とon-tradeでの4週間のアルコール消費量を推定した。

 主要評価項目は、スコットランドと対照群における週間交通事故発生率とした。2013年1月1日~2016年12月31日の期間で、1週間の交通事故発生率とアルコール消費量を評価した。

血中アルコール濃度基準値の引き下げ前後で、交通事故発生率に変化なし
 スコットランドで血中アルコール濃度の規制が厳しくなった2014年12月5日の前と後で、週間交通事故発生率の有意な変化は、季節および時間的傾向で補正後(率比:1.01、95%信頼区間[CI]:0.94~1.08、p=0.77)も、季節、時間的傾向およびドライバーの年齢・性別・社会経済的貧困の補正後(率比:1.00、95%CI:0.96~1.06、p=0.73)も、確認されなかった。

 ドライバーの血中アルコール濃度の規制が変更されていない対照群の週間交通事故発生率と比較し、スコットランドでの規制変更後の週間交通事故発生率は7%増加した(率比:1.07、95%CI:1.02~1.13、完全補正後モデルのp=0.007)。重大事故または死亡事故と、夜間の単一車両事故でも同様の結果が認められた。

 スコットランドにおける規制変更と、客単価から換算した1人当たりのoff-tradeアルコール消費量(率比:-0.3%、95%CI:-1.7~1.1、p=0.71)との関連は確認されなかったが、on-tradeアルコール消費量は0.7%有意な減少が認められた(率比:-0.7%、95%CI:-0.8~-0.5、p<0.0001)。

(医学ライター 吉尾 幸恵)