50歳以上の高血圧患者に対し、収縮期血圧の目標値を120mmHg未満として降圧治療を行っても、140mmHgを目標とする通常の降圧治療と比べて、認知症リスクの有意な低下は認められなかったことが示された。一方で、軽度認知障害のリスクは有意な低下が認められたという。米国・ウェイクフォレスト大学のJeff D. Williamson氏ら「SPRINT試験・SPRINT MIND」研究グループが、9,000例超を対象に行った無作為化比較試験で明らかにし、JAMA誌2019年1月28日号で発表した。ただし結果について、「試験が早期に中止となり、認知症例も予想より少なく、エンドポイントの検出力は不足している可能性がある」と指摘している。現状では、軽度認知障害や認知症のリスクを低減する実証された治療法は存在しておらず、今回研究グループは、血圧コントロールの強化が認知症リスクに与える影響を検討した。
米国、プエルトリコの102ヵ所で試験
研究グループは、米国とプエルトリコの102ヵ所の医療機関を通じて、高血圧症で糖尿病や脳卒中の病歴がない50歳以上、9,361例を対象に試験を行った。
被験者を無作為に2群に分け、一方の群は収縮期血圧の目標値を120mmHg未満とし(強化治療群4,678例)、もう一方の群は同目標値を140mmHgとした(標準治療群4,683例)。
無作為化は2010年11月8日から始められたが、主要アウトカム(複合心血管イベント)と全死因死亡に対する効果が認められたことで、予定より早く2015年8月20日に試験は中止となった。認知機能アウトカムのフォローアップ最終日は2018年7月22日だった。
主要認知機能アウトカムは、認知症の可能性ありとの判定。副次認知機能アウトカムは、軽度認知障害の診断、軽度認知障害または認知症の可能性ありの複合などだった。
強化治療群の標準治療群に対する認知症発生ハザード比は0.83
被験者9,361例の平均年齢は67.9歳、女性は3,332例(35.6%)を占め、8,563例(91.5%)が追跡期間中に1回以上の認知機能評価を受けた。介入期間中央値は3.34年、追跡期間中央値は5.11年だった。
追跡期間中の「認知症の可能性あり」との判定者は、強化治療群7.2例/1,000人年に対し、標準治療群8.6例/1,000人年で、有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.67~1.04、p=0.10)。
一方、「軽度認知障害」の判定者は、強化治療群14.6例/1,000人年、標準治療群18.3例/1,000人年で、強化治療群で有意に減少した(HR:0.81、95%CI:0.69~0.95、p=0.007)。「軽度認知障害または認知症の可能性あり」の判定者も、それぞれ20.2例/1,000人年、24.1例/1,000人年と、強化治療群で有意に減少した(HR:0.85、95%CI:0.74~0.97、p=0.01)。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)