米国のメディケアに加入する2型糖尿病患者において、インスリンアナログ製剤からヒトインスリンへの変更を含む医療保険制度改革の実行は、集団レベルでHbA1c値のわずかな上昇と関連していたことが、米国・ハーバード大学医学大学院のJing Luo氏らによる後ろ向きコホート研究の結果、明らかにされた。新規のインスリンアナログ製剤の価格は上昇しており、ヒトインスリンよりも高額である。しかし、臨床アウトカムを大きく改善しない可能性が示唆されており、低価格のヒトインスリンが多くの2型糖尿病患者にとって、現実的な初回治療の選択肢ではないかと考えられていた。JAMA誌2019年1月29日号掲載の報告。
メディケア処方プランに基づくインスリン変更前後のHbA1c値を評価
研究グループは、米国4州で実施されているメディケア・アドバンテージ処方プランの加入者を対象に、分割時系列分析による後ろ向きコホート研究を実施した。被験者には、2014年1月1日~2016年12月31日の期間にインスリンが処方された(追跡期間中央値729日)。医療保険制度改革に伴い、アナログ製剤からヒトインスリンへ変更する介入は、2015年2月にアリゾナ州で試験的に開始され、同年6月までに制度全体での施行が完了した。
主要評価項目は、12ヵ月間の平均HbA1c値の変化量とし、2014年の介入前(ベースライン)、2015年の介入時、2016年の介入後の3期間で評価した。副次評価項目は、重症低血糖または高血糖の頻度とし、ICD-9-CMおよびICD-10-CMの診断コードを用いて評価した。
アナログからヒトインスリンへの切り替えでHbA1cがわずかに上昇
1万4,635例(平均[±SD]年齢72.5±9.8歳、女性51%、2型糖尿病93%)に、3年以上にわたりインスリンが22万1,866件処方された。
ベースラインの平均HbA1c値は8.46%(95%信頼区間[CI]:8.40~8.52%)で、介入前は-0.02%/月(95%CI:-0.03~-0.01、p<0.001)の割合で減少していた。介入開始と、HbA1c値0.14%増加(95%CI:0.05~0.23、p=0.003)との関連、および傾斜変化0.02%(95%CI:0.01~0.03、p<0.001)との関連が確認された。介入完了後は、平均HbA1c変化量は0.08%(95%CI:-0.01~0.17)、傾斜変化は<0.001%(95%CI:-0.008~0.010%)で、介入時と比較して有意差は確認されなかった(それぞれp=0.09、p=0.81)。
重症低血糖の発現については、介入開始との間に有意な関連は確認されず、変化量は2.66/1,000人年(95%CI:-3.82~9.13、p=0.41)、傾斜変化は-0.66/1,000人年(95%CI:-1.59~0.27、p=0.16)であった。介入後は、1.64/1,000人年(95%CI:-4.83~8.11、p=0.61)、傾斜変化-0.23/1,000人年(95%CI:-1.17~0.70、p=0.61)で、介入時と比較し有意差は確認されなかった。ベースラインの重症高血糖の頻度は、22.33/1,000人年(95%CI:12.70~31.97)であった。重症高血糖の頻度に関しても、変化量4.23/1,000人年(95%CI:-8.62~17.08、p=0.51)、傾斜変化-0.51/1,000人年(95%CI:-2.37~1.34、p=0.58)であり、介入開始との間に有意な関連はみられなかった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)