メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の保菌患者に対し、病院や介護施設を退院・退所する際、衛生教育に加えてクロルヘキシジンによる口腔洗浄や入浴などの除菌指導を行うことで、退院後1年のMRSA感染リスクが約3割減少したことが示された。米国・カリフォルニア大学アーバイン校のSusan S. Huang氏らが、2,000例超を対象に行った多施設共同無作為化比較試験の結果で、NEJM誌2019年2月14日号で発表した。MRSA保菌入院患者は、退院後の感染リスクが高いことが知られている。
MRSA保菌者の退院時に「衛生教育vs.衛生教育+除菌指導」
研究グループは、病院や介護施設に入院・入所し、MRSA保菌が確認された被験者を無作為に2群に分け、退院・退所時に、一方には衛生管理に関する教育を、もう一方には衛生教育と除菌指導を行い、1年間追跡した。除菌指導のレジメンは、クロルヘキシジンによる口腔洗浄と入浴またはシャワー浴、ムピロシンの鼻腔内塗布(5日間を月2回、6ヵ月)だった。
主要アウトカムは、米国疾病予防管理センター(CDC)基準によるMRSA感染とした。副次アウトカムは、臨床的判断に基づくMRSA感染、あらゆる原因による感染、感染による入院とした。
解析は、per-protocol集団(無作為化され、包含基準を満たし退院後も生存した全被験者)と、as-treated集団(指導を受けたレジメン順守の程度により階層化した被験者)を対象にそれぞれ実施した。
MRSA保菌者のすべての感染リスクや入院リスク、いずれも約2割減少
MRSA保菌が確認された被験者は、2011年1月10日~2014年1月2日に南カリフォルニアにある17病院と7介護施設から集められ、2,140例が無作為化と追跡を受けた。
per-protocol集団(2,121例)において、MRSA感染の発生率は、衛生教育群9.2%(98/1,063例)に対し、衛生教育+除菌群は6.3%(67/1,058例)で同感染者の入院率は84.8%だった。
あらゆる原因による感染の発生率は、衛生教育群23.7%に対し、衛生教育+除菌群は19.6%で同感染者の入院率は85.8%だった。
MRSA感染リスクは、衛生教育+除菌群が衛生教育群よりも有意に低下した(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.52~0.96、p=0.03)。1例の感染を予防するための治療必要数[NNT]は30(95%CI:18~230)だった。
また、同感染リスクが低いことが、MRSA感染による入院リスクの低下にもつながっていた(HR:0.71、95%CI:0.51~0.99)。
臨床的判断に基づくあらゆる原因による感染リスクも、衛生教育+除菌群が衛生教育群に比べて有意に低く(HR:0.83、95%CI:0.70~0.99)、感染に伴う入院リスクも有意に低下した(HR:0.76、95%CI:0.62~0.93)。ただし著者は、「これら副次アウトカムの治療効果は、事前に多重比較に関する補正を規定していなかったため、慎重な解釈を要する」としている。
as-treated集団の解析では、除菌レジメンを順守した衛生教育+除菌群の被験者のMRSA感染リスクは、衛生教育群に比べ44%低く(HR:0.56、95%CI:0.36~0.86)、あらゆる原因による感染リスクは40%低かった(同:0.60、0.46~0.78)。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)