研究助成の申請成功率、男女差の理由は/Lancet

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2019/02/26

 

 国や専門分野を超え、男性研究者は女性の同輩に比べ研究資金を得る機会が多いことを示す研究があるが、その多くは観察研究のため、この不均衡は女性研究者の力量によるのか、それとも提出された研究の質によるのかは明確でないという。カナダ・ラヴァル大学のHolly O. Witteman氏らは、同国の助成プログラムの審査基準が変更されたのを機に調査を行った。その結果、研究助成のジェンダーギャップは、主任研究者としての女性の力量の評価が好ましくないことに起因し、提出した研究の質の評価によるのではないことが示された。研究の詳細は、Lancet誌2019年2月9日号に掲載された。2014年、カナダ健康研究所(CIHR)は、研究者主導の資金提供の申請を、主任研究者としての力量に重点を置く明確な評価の有無で、2つの新たな助成プログラムに分けた。

2つの審査基準で、主任研究者の男女別の申請成功事例を比較
 研究グループは、新たな助成プログラム導入の前後の2011~16年の期間に、CIHRによるすべての研究者主導の助成プログラムにおいて、主任研究者によって成された助成申請のうち、申請の成功事例について解析を行った(本研究は助成を受けていない)。

 一般化推定方程式を用いて、同一申請者による複数の申請を評価し、異なる審査基準(旧プログラムと同様に主に研究計画を評価するものと、主に主任研究者の統率力や生産性などを評価するもの)の下で、男性と女性の主任研究者による申請の成功事例を比較した。

 5年間に、2万5,706件の助成申請が行われた。このうち生年が1920年以前の主任研究者1,631人からの1,788件の申請を除外し、残りの7,093人の主任研究者(男性63%[申請時平均年齢52(SD 9)歳]、女性37%[50(SD 9)歳])による2万3,918件の助成申請を解析の対象とした。

全体の成功率は15.8%、新旧とも研究の質に差はない
 全体の助成申請の成功率は15.8%であった。年齢と研究領域で補正後の旧プログラムにおける予測成功率は、女性の申請が男性に比べ0.9ポイント低かった(95%信頼区間[CI]:2.0 lower~0.2 higher、オッズ比[OR]:0.934、95%CI:0.854~1.022)が、有意な差は認めなかった。

 新たなプログラムにおける、提出された研究の質に重点を置いた審査では、旧プログラムと同様、成功率には0.9ポイントの差が維持されており(95%CI:3.2 lower~1.4 higher、OR:0.998、95%CI:0.794~1.229)、有意差はみられなかった。

 これに対し、新プログラムの主任研究者の力量に重点を置いた審査では、女性の申請の成功率は男性に比べ4.0ポイント低く(95%CI:6.7 lower~1.3 lower、OR:0.705、95%CI:0.519~0.960)、この差は有意であった。

 資金提供成功のオッズは、旧プログラムに比べ新プログラム、生物医学領域に比べ非生物医学領域、高齢申請者に比べ若年申請者で低い傾向がみられた。

 著者は、「主任研究者として好ましくない評価が女性で生じる原因として、審査員側の意識的または無意識的なバイアスや、累積した不利益を反映した審査基準の形式上の体系的なバイアスの影響が考えられる。また、女性は自分の業績の説明に多くの言葉を費やさず、知的能力を自慢する傾向が低いことが報告されており、その影響があるかもしれない」と指摘し、「現在、好ましくない評価の原因の探索とともに、公正かつ厳格な査読(peer review)を育む戦略について議論を進めている」としている。

(医学ライター 菅野 守)

専門家はこう見る

コメンテーター : 折笠 秀樹( おりがさ ひでき ) 氏

統計数理研究所 大学統計教員育成センター 特任教授

滋賀大学 データサイエンス・AIイノベーション研究推進センター 特任教授

J-CLEAR評議員