重症心不全患者への完全磁気浮上型遠心流の左心補助人工心臓(LVAD)植込み術は、軸流LVADに比べポンプ交換の頻度が低く、後遺障害を伴う脳卒中やデバイス交換・除去の再手術なしで生存する可能性が高いことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMandeep R. Mehra氏らが行ったMOMENTUM 3試験の最終報告で示された。本試験の中間解析では、遠心流ポンプLVADは軸流ポンプLVADよりもポンプ血栓症や後遺障害のない脳卒中の頻度が低いことが報告されていた。NEJM誌オンライン版2019年3月17日号掲載の報告。
非劣性を検証する無作為化試験
本研究は、重症心不全患者へのLVAD植込み術における完全磁気浮上型遠心流ポンプと従来の軸流ポンプの有効性と安全性を比較する無作為化非劣性試験である(Abbottの助成による)。
対象は、LVADを要する重症心不全患者で、心移植までの橋渡し、または恒久治療かは問われなかった。被験者は、遠心流ポンプまたは軸流ポンプを用いたLVADを植え込む群に無作為に割り付けられた。
主要エンドポイントは、2年時の後遺障害を伴う脳卒中およびデバイス交換・除去のための再手術のない生存とし、主な副次エンドポイントは2年時のポンプ交換であった。主要エンドポイントは、両群間の差(遠心流ポンプ群-軸流ポンプ群)の95%信頼区間(CI)下限が-10ポイントより大きい場合に、非劣性と判定した。
主要エンドポイント:76.9% vs.64.8%、ポンプ交換:2.3% vs.11.3%
患者登録期間は2014年9月~2016年8月であった。今回の最終解析には1,028例(遠心流ポンプ群516例[平均年齢59歳、男性79.7%]、軸流ポンプ群512例[60歳、81.8%])が含まれた。遠心流ポンプ群の1例、軸流ポンプ群の7例が植込み術を受けなかった。
主要エンドポイントの発生率は、遠心流ポンプ群が76.9%(397例)と、軸流ポンプ群の64.8%(332例)よりも高く(群間の絶対差:12.1ポイント、95%CI:6.0~18.2)、遠心流ポンプ群の軸流ポンプ群に対する非劣性が示された(非劣性のp<0.001)。また、優越性の判定基準も満たした(相対リスク[RR]:0.84、95%CI:0.78~0.91、優越性のp<0.001)。
Kaplan-Meier法による2年無イベント生存率は、遠心流ポンプ群が74.7%と、軸流ポンプ群の60.6%に比べ有意に良好だった(ハザード比[HR]:0.60、95%CI:0.47~0.75)。
2年時のポンプ交換も、遠心流ポンプ群で有意に少なかった(2.3% vs.11.3%、RR:0.21、95%CI:0.11~0.38、p<0.001)。
デバイスを植え込んで退院した患者の割合は、遠心流ポンプ群が94.2%、軸流ポンプ群は93.3%であり、植込み術のための入院期間中央値はそれぞれ19日、17日であった。また、再入院の日数中央値はそれぞれ13日、18日(群間差:-5日、95%CI:-8.7~-1.3)、院外でLVADを植え込んだ状態で過ごした日数中央値は653日、605日(48日、-0.8~96.8)、全原因による再入院率は2.26件/人年、2.47件/人年(HR:0.92、0.86~0.99)だった。
ポンプ血栓症(1.4% vs.13.9%、p<0.001)、脳卒中(9.9% vs.19.4%、p<0.001)、出血(43.7% vs.55.0%、p<0.001)、消化管出血(24.5% vs.30.9、p<0.001)の頻度は、いずれも遠心流ポンプ群で低かった。
著者は、「2年間に、軸流ポンプの代わりに遠心流ポンプを用いることで、10例ごとに2.2件のポンプ血栓症、2件の脳卒中、6.8件の出血が回避された計算となり、院内で過ごす期間の短縮に結び付いたと考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)