短時間作用型オピオイド系鎮痛薬トラマドールは、一般に他の同種のオピオイドに比べ安全性が高いと考えられているが、相対的にリスクが低いことを支持するデータはないという。米国・メイヨークリニックのCornelius A. Thielsらは、術後の急性疼痛の治療にトラマドール単剤を投与された患者では、退院後の長期オピオイド使用のリスクが、他の同種のオピオイドよりも、むしろわずかに高いことを示した。研究の成果はBMJ誌2019年5月14日号に掲載された。
診療報酬データベースを用いて長期使用リスクを後ろ向きに評価
本研究は、米国の診療報酬データベースを用いた後ろ向き観察研究である(メイヨークリニック以外からの助成は受けていない)。
米国の民間保険およびMedicare Advantageの保険請求が登録されたOptumLabs Data Warehouseの、2009年1月1日~2018年6月30日のデータを用いた。対象は、待機的手術を受けたオピオイド投与歴のない患者であった。
術後にトラマドール単剤の投与を受けた患者と、他の短時間作用型オピオイドの投与を受けた患者で、退院後の長期的なオピオイド使用のリスクを比較した。「長期オピオイド使用」の定義は、文献上で一般的に使用されている次の3つを用いた。
(1)追加オピオイド使用(additional opioid use):術後90~180日における1回以上のオピオイドの調剤、(2)継続オピオイド使用(persistent opioid use):術後180日以内に開始され、90日以上持続する任意の期間のオピオイド使用、(3)CONSORT定義(CONSORT definition):術後180日以内に開始され、90日以上の期間に及ぶオピオイド使用のエピソードで、オピオイドの10回以上の調剤または120日分以上の補給のいずれか。
他剤に比べ追加使用6%、継続使用47%、CONSORT 41%増加
適格基準を満たした44万4,764例のうち、35万7,884例が退院時に1剤以上のオピオイドを処方された。
術後に最も多く処方されたオピオイドはhydrocodone(1剤のオピオイドを調剤された患者の53.0%)であり、次いで短時間作用型オキシコドン(37.5%)、トラマドール(4.0%)、コデイン(3.1%)、ヒドロモルフォン(1.2%)、propoxyphene(1.2%)の順であった。
術後の長期オピオイド使用の未調整リスクは、追加オピオイド使用が7.1%(3万1,431例)、継続オピオイド使用が1.0%(4,457例)であり、CONSORT定義を満たしたのは0.5%(2,027例)だった。
トラマドール単剤の処方により、他の短時間作用型オピオイドの投与を受けた患者と比較して、追加オピオイド使用のリスクが6%有意に増加した(罹患率比の95%信頼区間[CI]:1.00~1.13、リスク差:0.5ポイント、p=0.049)。また、継続オピオイド使用の調整リスクは47%有意に増加し(1.25~1.69、0.5ポイント、p<0.001)、CONSORTの長期使用エピソードの調整リスクも41%有意に上昇した(1.08~1.75、0.2ポイント、p=0.013)。
術後にトラマドールと他の短時間作用型オピオイドが処方された場合は、CONSORT定義のリスクが40%有意に増加し(p=0.022)、長時間作用型オピオイドの処方では、継続オピオイド使用のリスクが18%(p=0.029)、CONSORT定義のリスクが69%(p<0.001)上昇した。
著者は、「連邦政府機関はトラマドールの再分類を考慮すべきである。急性疼痛にトラマドールを処方する際は、他の短時間作用型オピオイドと同様、十分に注意を払う必要がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)