第1度近親者に胃がんの家族歴があるHelicobacter pylori感染者では、H. pyloriの除菌治療によって胃がんのリスクが低下することが、韓国・国立がんセンターのIl Ju Choi氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年1月30日号に掲載された。H. pylori感染と胃がんの家族歴は、胃がんの主要なリスク因子とされる。第1度近親者に胃がん罹患者がいるH. pylori感染者の胃がんリスクが、H. pylori除菌治療で低下するかは明らかではなかった。
除菌治療の有無で胃がん発生を比較する単一施設の無作為化試験
本研究は、韓国の単一施設(国立がんセンター、高陽市)で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2004年11月~2011年12月の期間に患者登録が行われた(韓国・国立がんセンターの助成による)。
対象は、年齢40~65歳、第1度近親者に1人以上の胃がん患者がいる
H. pylori感染者であった。胃がんや他臓器のがんの既往歴のある患者や、
H. pylori除菌治療歴のある患者は除外された。
被験者は、
H. pylori除菌治療を行う群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。
H. pylori除菌治療は、ランソプラゾール(プロトンポンプ阻害薬)30mg+アモキシシリン1,000mg+クラリスロマイシン500mgが、1日2回、7日間投与された。
主要アウトカムは胃がんの発生とした。事前に規定された副次アウトカムは、追跡期間中の
H. pylori除菌の状況別の胃がんの発生であった。
胃がんリスクが55%、除菌達成例では73%低下
1,838例が無作為化の対象となり、除菌治療群に917例(平均年齢48.8±6.0歳、男性49.9%)、プラセボ群には921例(48.8±6.3歳、49.1%)が割り付けられた。1,676例(修正ITT集団、除菌治療群832例、プラセボ群844例)が主要アウトカムの解析に含まれた。主要アウトカム評価の追跡期間中央値は9.2年(IQR:6.2~10.6)、全生存率評価の追跡期間中央値は10.2年(8.9~11.6)だった。
胃がんは、除菌治療群が832例中10例(1.2%)で発生し、プラセボ群の844例中23例(2.7%)と比較して、頻度が有意に低かった(ハザード比[HR]:0.45、95%信頼区間[CI]:0.21~0.94、log-rank検定のp=0.03)。試験期間中に、1例の胃がんの予防に要する治療必要数(NNT)は65.7(95%CI:35.1~503.8)であった。胃がん発生例33例のうち、30例(90.9%)がStageI、3例(9.1%)はStageIIだった。
H. pylori除菌の状況別の胃がんの発生は、1,587例(
H. pylori除菌達成例608例、持続感染例979例)で評価が可能であった。胃がんは、
H. pylori除菌達成例が608例中5例(0.8%)で発生し、持続感染例の979例中28例(2.9%)に比べ、頻度が有意に低かった(HR:0.27、95%CI:0.10~0.70)。胃がんが発生した除菌治療群の10例のうち、5例(50.0%)に
H. pyloriの持続感染が認められた。持続感染例では、除菌治療群とプラセボ群で胃がんの発生は類似していた。
除菌治療群の917例中16例(1.7%)およびプラセボ群の921例中18例(2.0%)が死亡し、全生存率に関して両群間に有意な差はなかった。また、胃がんによる死亡はみられなかった。
薬剤関連有害事象は全般に軽度であり、頻度は除菌治療群がプラセボ群よりも高かった(53.0% vs.19.1%、p<0.001)。除菌治療群で多い有害事象は、味覚変化(32.3% vs.3.5%、p<0.001)、悪心(6.6% vs.3.2%、p=0.001)、下痢(22.3% vs.6.1%、p<0.001)、腹痛(4.6% vs.0.9%、p<0.001)であり、有意差はないが消化不良(7.9% vs.6.1%)の頻度も高かった。
著者は、「本試験の結果からは、除菌が達成されなかった患者の胃がんリスクは、除菌治療群とプラセボ群で同様と考えられる。したがって、これらのデータは、test-treat-testアプローチ(検査の適応があり、検査結果が陽性の者は誰もが治療を受けるべきで、治療終了後は検査で除菌を確認)が推奨するように、除菌成功の確認の必要性を強調するものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)