手術を受けた重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染患者では、2割以上が30日以内に死亡し、約半数が術後肺合併症を発症しており、全死亡例の約8割に肺合併症が認められたとの調査結果が、英国・バーミンガム大学のDmitri Nepogodiev氏らCOVIDSurg Collaborativeによって報告された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年5月29日号に掲載された。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行以前には、質の高い国際的な観察研究により、術後の肺合併症(最大10%)および死亡(最大3%)の割合は確立されていた。研究グループは、COVID-19が世界的に流行している現在および収束後に、外科医と患者がエビデンスに基づく意思決定を行えるようにするには、術後の肺合併症と死亡に及ぼすSARS-CoV-2の影響を明らかにする必要があるとして本研究を行った。
235施設が参加した国際的なコホート研究
本研究は、24ヵ国235施設が参加した国際的なコホート研究であり、2020年1月1日~3月31日の期間に実施された(英国国立健康研究所[NIHR]などの助成による)。
対象は、手術の7日前~30日後の期間にSARS-CoV-2感染と診断された患者であった。良性疾患、がん、外傷、産科などを含むあらゆる適応症で手術を受けた患者が対象となった。年齢制限は各参加施設の規定に基づき、小児も含まれた。
主要アウトカムは、術後30日以内の死亡とした。主な副次アウトカムは、肺合併症(肺炎、急性呼吸急迫症候群[ARDS]、術後の予期せぬ換気[術後抜管後の侵襲的・非侵襲的換気、体外式膜型人工肺のエピソード、または患者が術後に計画どおりに抜管できなかった場合])であった。
流行期はとくに70歳以上の男性で手術の閾値を高くすべき
2020年5月2日の解析の時点で、30日間のフォローアップが完了した1,128例が解析に含まれた。605例(53.6%)が男性で、214例(19.0%)が50歳未満、353例(31.3%)が50~69歳、558例(49.5%)が70歳以上であった。
術前にSARS-CoV-2感染が確定していたのは294例(26.1%)で、術後の確定例は806例(71.5%)だった。835例(74.0%)が緊急手術、280例(24.8%)は待機的手術を受けた。手術の内訳は、良性疾患が54.5%、がんが24.6%、外傷が20.1%であり、小手術が22.3%、大手術は74.6%であった。
30日死亡率は23.8%(268/1,128例)だった。補正後解析では、以下の6つが30日死亡の有意な予測因子であった。
男性(女性と比較したオッズ比[OR]:1.75、95%信頼区間[CI]:1.28~2.40、p<0.0001)、年齢70歳以上(70歳未満と比較したOR:2.30、1.65~3.22、p<0.0001)、米国麻酔学会(ASA)の術前状態分類のGrade3~5(Grade1/2と比較したOR:2.35、1.57~3.53、p<0.0001)、がんの診断(良性疾患/産科の診断と比較したOR:1.55、1.01~2.39、p=0.046)、緊急手術(待機的手術と比較したOR:1.67、1.06~2.63、p=0.026)、大手術(小手術と比較したOR:1.52、1.01~2.31、p=0.047)。
肺合併症は577例(51.2%)で発生した。このうち、456例(40.4%)が肺炎、240例(21.3%)が予期せぬ換気、162例(14.4%)はARDSであった。肺合併症例の30日死亡率は38.0%(219/577例)であり、非肺合併症例の8.7%(46/526例)に比べて高かった(p<0.0001)。また、肺合併症は、全死亡例の81.7%(219/268例)に認められた。補正後解析では、男性(OR:1.45、95%CI:1.07~1.96、p=0.016)およびASA Grade3~5(2.74、1.89~3.99、p<0.0001)は、肺合併症の独立の予測因子であった。
著者は、「COVID-19の世界的流行の期間中は、とくに70歳以上の男性において、通常の診療時よりも手術の閾値を高くすべきである。また、緊急性のない手術の延期を検討し、手術の遅延や必要性の回避を目的とする非手術的治療の積極的導入を考慮する必要がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)