多剤併用(ポリファーマシー)は高齢者で一般的にみられ、不適切な薬剤が含まれることや、潜在的な害を伴うことが多いとされる。ドイツ・Witten/Herdecke UniversityのAnja Rieckert氏らは、多剤併用高齢患者における潜在的不適切薬剤処方(potentially inappropriate prescribing)を改善するための電子的意思決定支援ツールを新たに開発し、その有効性を実臨床で評価した。結果は、このツールにより、予定外の入院と24ヵ月以内の死亡について決定的な効果は確認されなかったものの、患者アウトカムに悪い影響を及ぼすことなく薬剤数の削減が達成されたという。BMJ誌2020年6月18日号掲載の報告。
4ヵ国の総合診療医が参加した実践的クラスター無作為化試験
研究グループは、PRIMA-eDS(polypharmacy in chronic diseases: reduction of inappropriate medication and adverse drug events in older populations by electronic decision support)と呼ばれる電子的意思決定支援ツール(
https://www.prima-eds.eu)を開発し、その使用が不適切な多剤併用の減少につながり患者関連エンドポイントの改善をもたらすかを評価する目的で、実践的なクラスター無作為化対照比較試験を行った(第7次欧州連合研究開発枠組計画の助成による)。
このツールは、個々の患者データと最新の最良エビデンスに基づく包括的な薬剤レビューを自動的に生成し、医師が減薬(deprescribing)を行う際に、それを支援するものである。
2013年5月~2015年9月の期間に、4ヵ国(オーストリア、ドイツ、イタリア、英国)の5つの研究センターで、試験に参加する総合診療医(診療所)の募集が行われた(グループ診療の場合、参加は1人の医師に限定)。
参加医師は、複数の慢性疾患を有し、8剤以上の薬剤(他の医師が処方した薬剤や非処方箋医薬品を含む)を定期的に使用している75歳以上の患者を11人登録するよう求められた。
患者登録とベースラインデータの収集が終了後、参加医師は電子的支援ツールを用いて診療を行う群(介入群)または通常治療を行う群(対照群)に無作為に割り付けられた。
主要アウトカムは、予定外の入院または24ヵ月以内の死亡の複合とした。主な副次アウトカムは、薬剤数の削減であった。
ITT解析で差はなし、PP解析では有意差あり
2015年1月~10月の期間に、359の診療所で3,904例が登録された。介入群に181の診療所と1,953例が、対照群には178の診療所と1,951例が割り付けられた。ベースラインの全体の患者の平均年齢は81.5(SD 4.4)歳、女性が2,240例(57.4%)で、平均使用薬剤数は10.5(2.4)剤、平均診断名数は9.5(4.9)件であった。
主要アウトカムは、介入群が871例(44.6%)、対照群は944例(48.4%)で発生した。追跡不能例(介入群126例[6.5%]、対照群111例[5.7%])をアウトカム達成例に含めたintention-to-treat解析では、両群間に有意な差は認められなかった(介入群997/1,953例[51.0%]vs.対照群1,055/1,951例[54.1%]、オッズ比[OR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.73~1.07、p=0.19)。欠測値の多重代入法またはCox回帰による感度分析でも、この知見を支持する結果が得られた(ハザード比[HR]:0.93、95%CI:0.82~1.05、p=0.24)。
一方、受診患者に限定したper-protocol解析では、主要アウトカムは介入群で有意に良好であった(OR:0.82、95%CI:0.68~0.98、p=0.03)。
また、最終受診時の薬剤数は、介入群で有意に少なかった(発生率比:0.95、95%CI:0.94~0.97、p<0.001)。ベースラインからの総薬剤数の変化を用いた感度分析では、これを支持する結果が得られた(平均変化量について介入群:-0.42 vs.対照群0.06、補正平均群間差:-0.45、95%CI:-0.63~-0.26、p<0.001)。
死亡(介入群19.5% vs.対照群18.8%、p=0.96)、予定外の初回入院(48.4% vs.50.7%、p=0.36)、予定外入院の期間(7.89日vs.8.47日、p=0.79)、1回以上の骨折(3.0% vs.2.3%、p=0.17)などには、両群間に有意な差はみられなかった。
著者は、「これは、電子的意思決定支援ツールのより広範な導入、できれば電子カルテ内に統合した形での導入を支持する十分な強度を持つエビデンスと考える」としている。
(医学ライター 菅野 守)