高齢者では6種類以上の薬を常用していることも珍しくなく、近年多剤併用(ポリファーマシー)の問題がクローズアップされている。そんななか、MSD株式会社は、「シニア世代における服薬・不眠症治療に関する実態調査」を行い、今回その結果を公表した。
今回の調査の目的は、多剤併用のリスクにつき、(服薬している)高齢者本人だけではなく、その配偶者も意識しているかどうかのほか、服薬に関する状況やリスク認識、不眠症治療薬に対する意識についても調査した。シニア世代(55歳以上)を配偶者に持つ男女3万20名に調査。
多剤併用の目安とされる「6種類以上」服用は8.0%
はじめに「(配偶者が)医師から処方された治療薬を服用しているかどうか」の問いには、54.4%が「はい」と回答、また、「(配偶者が)1日に何種類の治療薬を服用しているか」の問いには、「3種類以上」が40.2%(3~5種類/6~10種類/11種類以上の合計)」と4割にのぼり、「3~5種類」が32.2%と最も多く、多剤併用の目安とされる「6種類以上(6~10種類/11種類以上の合計)」を服用している回答者は8.0%だった。
「あなたが主体となって配偶者の服薬の管理をしているか」の問いでは、回答者が女性の場合6.5%、回答者が男性の場合2.6%(196人)と、男女間で差が見られた。
また、「配偶者に不眠症状(夜なかなか寝付けない/夜中に何度も起きるなど)が見られるケースがあるか」の問いでは、「ある」が37.7%にもかかわらず、配偶者が不眠症治療薬を服用している割合は6.9%だった。
多剤併用と不眠症のリスク
不眠症治療薬を服用している55歳以上の配偶者を持つ人412名を対象とした2次調査では、「『多剤併用』という言葉やリスクについて知っているか」という問いに「知らなかったと答えた人は67.7%だった。また、多剤併用に関して、言葉もしくはリスクについて知っていた回答者のなかで、「医師に相談したことがある人」は15.1%だった。
配偶者の多剤併用について、とくに不安や心配を「感じない」または「感じていなかった」人は77.4%と約8割いた一方で、医師から処方された治療薬に関して「病気やケガを治すためとはいえ、治療薬はできる限り最小限にしたい」と考える人は69.4%だった。
不眠症治療薬の服用の実態
2次調査による回答で配偶者の不眠症治療薬の服用期間で、1年以上の長期服用割合は88.6%とかなりの数の患者が長期にわたり服用している現実が明らかになった。
不眠症治療薬に抱くイメージでは、「薬を飲み始めたらなかなかやめられない」(47.3%)、「薬を飲まないと、不安でますます眠れなくなる」(41.0%)、「服用期間が長くなると、効き目が悪くなる」(37.6%)などだった。また、不眠症治療薬を服用している配偶者に「足元のふらつき」が見られる割合は17.0%と、約5人に1人が経験している結果だった。
「(配偶者には)できれば不眠症治療薬に頼らずに眠ってほしい」と思っている人が88.6%いる一方で、88.3%が「きちんと眠るためには不眠症治療薬を服用することも仕方ない」とも考えていることが判明した。
不眠症治療薬の服用をやめることを夫婦で話したことがある人は51.5%にのぼるが、配偶者が服用をやめることを医師に相談したことがある人は28.9%だった。
正しく薬を使うという考え方を持つことが重要
今回の多剤併用のリスク意識についての調査結果を踏まえ秋下 雅弘氏(東京大学医学部附属病院 老年病科 教授)は、「多くの人に対して『薬の適正使用』という考えを啓発する必要性を改めて感じる。『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会)』では、控えたい薬の中でよく使われるものとして不眠症治療薬も含まれているが、『薬を使わなくても良い』という訳ではなく、生活の質を向上させるために『正しく薬を使う』という考え方を持つことが重要。自分や家族に気になる様子がある場合、自己判断による服用の中断は避け、かかりつけのお医者さんに相談することが重要」とコメントを寄せている。
また、池上 あずさ氏(くわみず病院 院長)は、「不眠症治療では、不眠に悩む本人だけでなく、治療に寄り添う医療従事者、一緒に生活する家族の理解と協力が欠かせないが、薬の服用をやめることを医師に相談した人が3割弱となっていることから、悩まれながらも打ち明けることができていない姿が想像された。不眠症治療のゴールである『薬に頼らずと眠れる』ためにも、適切な治療を開始することが重要。正しい知識をより多くの人が持つためにも今回のような啓発活動は大切で、医療従事者からも、患者さんに伝えていきたい」とコメントを寄せた。
●調査概要
対象:55歳以上の配偶者を持つ男女 3万20名
対象地域:全国
方法:インターネット調査
期間:2018年9月4日~12日
(ケアネット 稲川 進)