集中治療室(ICU)での重症COVID-19患者の治療において、ヒドロコルチゾンの使用は、これを使用しない場合に比べ、呼吸器系および循環器系の臓器補助を要さない日数を増加させる可能性が高いものの、統計学的な優越性の基準は満たさなかったとの研究結果が、米国・ピッツバーグ大学のDerek C. Angus氏らの検討「REMAP-CAP試験」によって示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2020年9月2日号に掲載された。コルチコステロイドは、実臨床でCOVID-19患者にさまざまな方法で投与されており、観察研究では有益性と有害性の双方が報告されている。この不確実性を軽減するために、いくつかの研究グループが無作為化臨床試験を開始しているという。
8ヵ国121施設が参加した進行中の無作為化試験
本研究は、アダプティブプラットフォーム臨床試験と実臨床のポイントオブケア臨床試験の特徴を併せ持つ進行中の非盲検無作為化試験であり、重症肺炎患者における最良の治療戦略の検証を目的に開始された(Platform for European Preparedness Against[Re-]emerging Epidemics[PREPARE]consortiumなどの助成による)。アダプティブプラットフォームでは、複数の治療ドメイン(たとえば抗菌薬、コルチコステロイド、免疫グロブリンなど)で複数の介入の効果の評価が可能である。
2020年3月9日~6月17日の期間に、8ヵ国121施設で、呼吸器系または循環器系の臓器補助のためにICUに入室した成人重症COVID-19の疑い例と確定例が登録された(614例)。このうち403例がコルチコステロイドによる治療ドメインに含まれ、非盲検下に介入が行われた。フォローアップは、2020年8月12日に終了した。
コルチコステロイド治療ドメインの患者は、次の3つの群のいずれかに無作為に割付けられた。参加施設の担当医は、事前に、3つのうち2つ以上の治療群を選択した。(1)固定用量ヒドロコルチゾンの7日間静脈内投与(50mgまたは100mg、6時間ごと)、(2)ショック時ヒドロコルチゾン静脈内投与(臨床的にショックが明白な場合にのみ、50mgを6時間ごと)、(3)ヒドロコルチゾン非投与。
主要エンドポイントは、21日以内の非臓器補助日数(患者が生存し、ICUで呼吸器系または循環器系の臓器補助を行わない日数)であり、患者が死亡した場合は-1日とした。呼吸補助は、侵襲的・非侵襲的機械換気または高流量式鼻カニュラで、循環補助は、昇圧薬または強心薬の静脈内注入とした。解析には、ベイジアン累積ロジスティックモデルを用いた。優越性は、オッズ比(OR)>1(非臓器補助日数が非投与に比べて多い)の事後確率(優越性確率の閾値は>99%)と定義した。
本研究は、他の試験(RECOVERY試験)の結果を受けて、2020年6月17日、運営委員会により患者登録の早期中止が決定された。
非投与群より非補助日数が優れる確率は93%と80%
403例のうち同意を撤回した19例を除く384例(平均年齢60歳、女性29%)が登録され、固定用量群に137例、ショック時投与群に146例、非投与群に101例が割り付けられた。379例(99%)が試験を完遂し、解析に含まれた。
3群の平均年齢の幅は59.5~60.4歳、男性が70.6~71.5%と多くを占め、平均BMIは29.7~30.9、機械的換気施行例は50.0~63.5%であった。ベースラインで全例が呼吸補助または循環補助を受けていた。
非臓器補助日数中央値は、固定用量群が0日(IQR:-1~15)、ショック時投与群が0日(-1~13)、非投与群が0日(-1~11)であった。院内死亡率はそれぞれ30%、26%、33%で、生存例の非臓器補助日数中央値は、11.5日(0~17)、9.5日(0~16)、6日(0~12)だった。
非投与群と比較した固定用量群の補正後OR中央値は1.43(95%信用区間[CrI]:0.91~2.27)、ベイズ解析による優越性確率(bayesian probability of superiority)は93%であり、ショック時投与群はそれぞれ1.22(0.76~1.94)および80%であった。
重篤な有害事象は、固定用量群4例(3%)、ショック時投与群5例(3%)、非投与群1例(1%)に認められた。
著者は、「これらの知見は、重症COVID-19患者の治療におけるヒドロコルチゾン投与の有益性を示唆するが、本試験は早期中止となり、どの治療戦略も事前に規定された統計学的な優越性の基準を満たしておらず、確定的な結論には至っていない」としている。
(医学ライター 菅野 守)