praliciguat、HFpEF患者の最高酸素摂取量を改善せず/JAMA

提供元:ケアネット

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公開日:2020/11/04

 

 左室駆出率(LVEF)の保たれた心不全(HFpEF)患者の治療において、経口可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬praliciguatはプラセボに比べ、全身持久力の指標である最高酸素摂取量(peak VO2)を改善せず、6分間歩行検査(6-MWT)距離や換気効率にも有意な差はないことが、米国・タフツ医療センターのJames E. Udelson氏らが行った「CAPACITY HFpEF試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年10月20日号で報告された。HFpEFは、一般に一酸化窒素(NO)の欠乏で特徴付けられ、NO-sGC-サイクリックグアノシン一リン酸(cGMP)のシグナル伝達経路の増強は、HFpEFの治療標的となる可能性があるという。

peak VO2を評価するプラセボ対照無作為化第II相試験

 研究グループは、HFpEF患者の治療におけるpraliciguatの有効性と有害事象の評価を目的に、二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験を実施した(Cyclerion Therapeuticsの助成による)。

 対象は、年齢45歳以上、心不全の診断を受け、LVEF≧40%、peak VO2<80%であり、4つのNO欠乏状態(糖尿病、高血圧、肥満、高齢[70歳以上])のうち2つ以上を有する患者であった。

 被験者は、当初、praliciguatの3つの用量またはプラセボのいずれかを投与する群に無作為に割り付けられたが、試験開始早期にpraliciguat 40mg(毎日投与)とプラセボの比較試験に変更された。治療は12週間行われた。

 有効性の主要エンドポイントは、8週間以上の治療を受けた患者におけるpeak VO2のベースラインからの変化とした。副次エンドポイントは、6-MWT距離および換気効率(運動時の二酸化炭素排出量[L/分]に対する換気量[L/分]の増加割合、数値が高いほど効率が悪い)のベースラインからの変化、心肺運動負荷検査(CPET)のレスポンダー(ベースラインから12週までに、peak VO2が1.5mL/kg/分以上改善した患者)の数であった。有害事象の主要エンドポイントは、治療関連有害事象(TEAE)の発生とした。

3つの副次エンドポイントも有意差なし

 2017年11月~2019年4月の期間に、米国とカナダの59施設で181例が登録された。平均年齢は70(SD 9)歳、75例(41%)が女性で、平均BMIは34であった。また、23例(13%)がLVEF≦50%、129例(71%)がNYHA心機能分類クラスIIで、59例(33%)に心不全による入院歴があり、31例(17%)は心房細動を有していた。最終フォローアップ日は2019年8月19日で、155例(86%)が試験を終了した。

 peak VO2のベースラインからの変化は、praliciguat群が-0.26mL/kg/分(95%信頼区間[CI]:-0.83~0.31)、プラセボ群は0.04mL/kg/分(-0.49~0.56)であった。プラセボで補正した変化量の最小二乗平均値の群間差は-0.30mL/kg/分(-0.95~0.35、p=0.37)であり、有意な差は認められなかった。

 3つの副次エンドポイントにも、統計学的な有意差はみられなかった。すなわち、6-MWT距離の変化は、praliciguat群が41.4m(95%CI:8.3~74.5)、プラセボ群は58.1m(26.1~90.1)であり、プラセボで補正した変化量の最小二乗平均値の群間差は-16.7m(-47.4~13.9、p=0.28)であった。換気効率の変化のプラセボで補正した変化量の最小二乗平均値の群間差は-0.3(-1.6~1.0、p=0.65)、CPETレスポンダーのオッズ比は0.9(0.4~2.1、p=0.82)だった。

 TEAEについては、praliciguat群はプラセボ群に比べ、めまい(9.9% vs.1.1%)、低血圧(8.8% vs.0%)、頭痛(11% vs.6.7%)の頻度が高かった。重篤なTEAEの頻度は、両群で同等であった(10% vs.11%)。TEAEにより治療を中止した患者は8例(praliciguat群5例[5.5%]、プラセボ群3例[3.3%])認められた。

 著者は、「これらの知見は、HFpEF患者におけるpraliciguatの使用を支持しない」とまとめ、「HFpEF患者は、NO-sGC-cGMP経路が障害されている可能性があるとの考え方は強く支持されており、praliciguatによるsGC刺激に関する前臨床試験の強力なデータの存在を考慮すると、良好な臨床効果が得られなかった理由として、1)投与量が最適でない、2)患者選択ではNO-sGC-cGMPシグナルが障害されたHFpEF患者が同定されなかった、3)HFpEF患者では、NO-sGC-cGMPシグナルの障害は病態生理学的に重要な関連性がない、などが挙げられる」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)