左室駆出率(LVEF)の保たれた心不全(HFpEF)患者において、ネプリライシン阻害薬sacubitrilとARBバルサルタンの合剤(sacubitril/バルサルタン)は、心血管死およびすべての心不全入院の複合エンドポイントを有意に低下させるという結果には至らなかった。米国・ハーバード・メディカル・スクールのScott D. Solomon氏らが、HFpEF患者を対象にsacubitril/バルサルタンとバルサルタンを比較する無作為化二重盲検試験「PARAGON-HF試験」の結果を報告した。LVEFが低下した心不全患者においては、sacubitril/バルサルタンにより心血管死および心不全による全入院のリスクが低下することが示されていたが、HFpEFに対する有効性はこれまで不明であった。NEJM誌オンライン版2019年9月1日号掲載の報告。
sacubitril/バルサルタンとバルサルタンの有効性をHFpEF患者約5,000例で比較
研究グループは、2014年7月18日~2016年12月16日の間に、NYHA心機能分類II~IV、LVEF 45%以上、NT-proBNP高値で構造的心疾患を認める50歳以上の心不全患者4,822例を、sacubitril/バルサルタン群(sacubitril97mg/バルサルタン103mgを1日2回)またはバルサルタン群(160mgを1日2回)に無作為に割り付けた。
sacubitril/バルサルタンとバルサルタンを比較する主要評価項目は、心血管死および心不全による全入院(初回および再入院を含む)の複合エンドポイントであった。
主要評価項目の各項目、ならびに8ヵ月後におけるNYHA心機能分類のベースラインからの変化、腎機能の悪化(e-GFRの50%以上の低下、腎不全末期、腎不全による死亡)、カンザスシティー心筋症質問票(KCCQ)による臨床スコア(スコア:0~100、スコアが高いほど症状と身体的制限が少ないことを示す)の変化などの副次評価項目、安全性についても評価した。intention-to-treat解析を実施した。
sacubitril/バルサルタン群とバルサルタン群では心血管死と心不全入院で有意差なし
主要評価項目の複合エンドポイントは、sacubitril/バルサルタン群で562例894件、バルサルタン群で557例1,009件が確認された(率比:0.87、95%信頼区間[CI]:0.75~1.01、p=0.06)。心血管死の発生率はsacubitril/バルサルタン群8.5%、バルサルタン群8.9%(ハザード比[HR]:0.95、95%CI:0.79~1.16)、心不全による全入院はそれぞれ690件および797例(率比:0.85、95%CI:0.72~1.00)であった。
NYHA心機能分類は、sacubitril/バルサルタン群で15%、バルサルタン群で12.6%の患者に改善が認められた(オッズ比:1.45、95%CI:1.13~1.86)。腎機能悪化はそれぞれ1.4%および2.7%で確認された(HR:0.50、95%CI:0.33~0.77)。8ヵ月時点におけるKCCQ臨床スコアの平均変化量は、sacubitril/バルサルタン群が1.0ポイント(95%CI:0.0~2.1)高値であった。
sacubitril/バルサルタン群で、低血圧および血管性浮腫の発現率が高く、高カリウム血症の発現率が低かった。事前に定義したサブグループ解析の結果、LVEFが低い患者および女性患者においてsacubitril/バルサルタンが有効である可能性が示唆された。
(医学ライター 吉尾 幸恵)