がん治療が4週間遅れるだけで、手術、全身療法、放射線療法の適応となる7つのがんで全体の死亡率が上昇する。カナダ・クイーンズ大学のTimothy P. Hanna氏らが、がん治療の遅延と死亡率上昇との関連を定量化する目的で実施したシステマティックレビューとメタ解析の結果を報告した。がん治療の遅れは転帰に悪影響を及ぼす可能性があるが、その影響の標準推定値はなく、これまでのメタ解析で治療の遅れと死亡/局所管理との関連が示されていたものの、各報告のばらつきが大きくメタ解析に限界があった。著者は、「世界的にがん治療の遅れは医療制度に問題がある。がん治療開始の遅れを最小限にするシステムに焦点を当てた政策が、集団レベルでの生存転帰を改善できるであろう」とまとめている。BMJ誌2020年11月4日号掲載の報告。
7種類のがん治療の4週間遅延ごとの全生存期間を評価
研究グループは2000年1月1日~2020年4月10日にMedlineで公表された、7つのがん(膀胱がん、乳がん、結腸がん、直腸がん、肺がん、子宮頸がん、頭頸部がん)に対する手術、全身療法または放射線療法の根治的、術前および術後適応の研究を解析に組み込んだ。
主要評価項目は、各適応症の4週間遅延ごとの全生存(OS)期間のハザード比(HR)であった。遅延は診断からがんの初回治療まで、または1つの治療の完了から次の治療の開始までで評価した。
主要解析は、主要な予後因子を補正した妥当性の高い研究のみを対象とした。HRは、OSに関する対数線形で推測され、4週間の遅延ごとの影響に換算された。併合効果は、DerSimonian-Laird変量効果モデルを用いて推定した。
13の適応症でがん治療の遅延と死亡率上昇に有意な関連
解析には、17の適応症に関する34件の研究が組み込まれた(計127万2,681例)。放射線療法の適応となる5つのがん、または子宮頸がんの手術に関する妥当性の高いデータは確認できなかった。
がん治療の遅延と死亡率上昇との有意な関連性(p<0.05)が、17の適応症のうち13で確認された。
手術に関しては、4週間の遅延ごとの死亡のHRの範囲が1.06~1.08と、がんの種類を問わず一貫していた(例:結腸切除術は1.06[95%信頼区間[CI]:1.01~1.12]、乳がん手術は1.08[95%CI:1.03~1.13])。全身療法の推定値はばらつきがみられた(HRの範囲:1.01~1.28)。放射線療法の推定値は、頭頸部がんの根治的放射線療法のHRが1.09(95%CI:1.05~1.14)、乳房温存手術の術後放射線療法のHRが0.98(95%CI:0.88~1.09)、子宮頸がんの術後放射線療法のHRが1.23(95%CI:1.00~1.50)であった。
合併症または機能状態に関する情報が不足していたため、除外された研究の感度解析でも結果は変わらなかった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)