ゴリムマブ、1型糖尿病若年患者のインスリン産生能を改善/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2020/12/14

 

 新たに顕性1型糖尿病と診断された小児および若年成人において、ゴリムマブの投与はプラセボに比べ、内因性インスリン産生能が優れ、外因性インスリンの使用量は少ないことが、米国・ニューヨーク州立大学バッファロー校のTeresa Quattrin氏らが行った「T1GER試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年11月19日号に掲載された。1型糖尿病は、膵β細胞の進行性の低下で特徴付けられる自己免疫疾患である。ゴリムマブは、腫瘍壊死因子αに特異的なヒトIgG1-κモノクローナル抗体であり、欧米では成人の関節リウマチや潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患、欧州などでは多関節型若年性特発性関節炎や小児の非X線的体軸性脊椎関節炎などの治療法として承認されている。

ゴリムマブによる1型糖尿病若年患者の改善効果を評価

 本研究は、新規の顕性1型糖尿病若年患者におけるゴリムマブによる膵β細胞機能の保持および糖尿病関連の臨床・代謝指標の改善効果の評価を目的とする二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験であり、米国の27施設が参加した(Janssen Research and Developmentの助成による)。

 対象は、年齢6~21歳、米国糖尿病学会(ADA)の判定基準で新たに顕性(ステージ3)1型糖尿病と診断され、4時間混合食負荷試験でC-ペプチド値が0.2pmol/mL以上の患者であった。被験者は、ゴリムマブを皮下投与する群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付けられ、52週間の投与を受けた。

 主要エンドポイントは、52週の時点における内因性インスリン産生量とし、4時間混合食負荷試験で産生されたC-ペプチドの濃度-時間曲線下面積(4時間C-ペプチドAUC)で評価された。副次および追加エンドポイントは、インスリン使用量、糖化ヘモグロビン値、低血糖のイベント数、経時的空腹時プロインスリン/C-ペプチド比などであった。

ゴリムマブによりβ細胞の健全性が改善されたと示唆される

 顕性1型糖尿病若年患者84例が登録され、56例はゴリムマブ群(平均年齢[±SD]13.9±3.7歳、男性55%)、28例はプラセボ群(14.0±4.0歳、64%)に割り付けられた。52週の期間中の平均投与期間は、ゴリムマブ群が47.1週、プラセボ群は49.0週であり、この期間に可能であった27回の注射のうち、それぞれ平均24.2回および24.9回の注射が行われた。

 52週の時点における4時間C-ペプチドAUCの平均値(±SD)は、ゴリムマブ群が0.64±0.42pmol/mLと、プラセボ群の0.43±0.39pmol/mLに比べ有意に高かった(p<0.001)。4時間C-ペプチドAUCのベースラインからの変化の平均値は、ゴリムマブ群が-0.13pmol/mL、プラセボ群は-0.49pmol/mLであり、平均低下率はそれぞれ12%および56%であった。

 目標達成に向けた治療(treat-to-target)アプローチによって、両群とも良好な血糖コントロールが達成された。平均糖化ヘモグロビン値は、ベースラインがゴリムマブ群7.0±1.1%、プラセボ群7.1±1.2%で、52週時はそれぞれ7.3±1.5%および7.6±1.2%であった。ベースラインから52週までの変化の最小二乗平均値(±SD)には、両群間に有意な差は認められなかった(0.47±0.21% vs.0.56±0.29%、p=0.80)。

 平均インスリン使用量は、ベースラインがゴリムマブ群0.42±0.26U/kg/日、プラセボ群0.44±0.20U/kg/日、52週時はそれぞれ0.51±0.28U/kg/日および0.69±0.26U/kg/日であり、ベースラインから52週までの変化の最小二乗平均値(±SD)はゴリムマブ群で有意に低かった(0.07±0.03U/kg/日 vs.0.24±0.04U/kg/日、p=0.001)。

 52週時の低血糖イベント数の平均値は、ゴリムマブ群38.2±35.7件、プラセボ群42.9±4.0件であり、両群間に差はなかった(p=0.80)。部分寛解反応(インスリン量で調整した糖化ヘモグロビン値スコア[糖化ヘモグロビン値+4×インスリン量]≦9)は、ゴリムマブ群43%、プラセボ群7%で観察された(群間差36ポイント、95%信頼区間[CI]:22~55)。また、52週の期間中の空腹時プロインスリン/C-ペプチド比中央値は、ゴリムマブ群のほうが安定しており、両群間の差は0.124(95%CI:0.064~0.184)と、ゴリムマブ群で効果が高いことが示唆された。

 有害事象は、ゴリムマブ群91%、プラセボ群82%で発現した。感染症はそれぞれ71%および61%で発症したが、重度および重篤な感染症はみられなかった。担当医の判定で有害事象として記録された低血糖イベントは、ゴリムマブ群13例(23%)、プラセボ群2例(7%)で報告された。また、ゴリムマブに対する抗体は30例(54%)で検出され、29例は抗体価が1:1,000未満であり、このうち12例が中和抗体陽性だった。

 著者は、「膵β細胞機能障害の指標である空腹時プロインスリン/C-ペプチド比が、プラセボ群では試験期間中に経時的に増加したのに対し、ゴリムマブ群ではほとんど変化しなかったことから、ゴリムマブによりβ細胞の健全性が改善されたと示唆される」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 住谷 哲( すみたに さとる ) 氏

社会福祉法人恩賜財団大阪府済生会泉尾病院 糖尿病・内分泌内科 主任部長

J-CLEAR評議員