2型糖尿病患者の長期管理において、代謝改善手術(metabolic surgery)は従来の内科的治療と比較して、10年時の糖尿病寛解率が高く、糖尿病関連合併症も少ないことが、イタリア・Fondazione Policlinico Universitario Agostino Gemelli IRCCSのGeltrude Mingrone氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2021年1月23日号に掲載された。従来の肥満減量手術(bariatric surgery)の観察研究では、糖尿病の寛解が長期に持続する可能性が示唆されているが、これらの知見を2型糖尿病の広範な患者集団に外挿することは困難だという。また、これまでに、2型糖尿病への代謝改善手術の無作為化対照比較試験で、5年を超えるデータは得られていなかった。
単施設の無作為化対照比較試験の10年の結果
本研究は、2型糖尿病患者の管理において、代謝改善手術と内科的治療+生活様式への介入の有用性を比較する単施設(イタリア、ローマ市の3次病院)の非盲検無作為化対照比較試験であり、今回は10年間のフォローアップの結果が報告された(イタリアFondazione Policlinico Universitario Agostino Gemelli IRCCSの助成による)。
対象は、年齢30~60歳、BMI≧35で、5年以上持続する2型糖尿病が認められ、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値≧7.0%の患者であった。被験者は、内科的治療、腹腔鏡下Roux-en-Y胃バイパス術(RYGB)、開胸的胆膵路転換術(BPD)を受ける群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。
主要エンドポイントは、2年の時点での糖尿病寛解(HbA1c<6.5%、空腹時血糖値<5.55mmol/L、継続的な薬物療法を1年以上受けていない)とされた。intention to treat(ITT)集団で、10年の時点での糖尿病寛解の持続性を解析した。
再発例も10年後に良好な血糖コントロール達成
2009年4月30日~2011年10月31日の期間に60例が登録され、3つの群に20例ずつが割り付けられた。平均年齢は、内科的治療群43.5歳、BPD群43.6歳、RYGB群43.9歳、女性がそれぞれ50.0%、50.0%、60.0%であった。平均BMIは、44.6、44.4、44.2、HbA1cは8.5%、8.9%、8.6%だった。
57例(95.0%)が10年のフォローアップを終了した。ITT解析には58例(内科的治療群18例、BPD群20例、RYGB群20例)が含まれた。
外科的治療を受けた患者40例のうち、15例(37.5%)が10年を通じて糖尿病寛解を維持していた。ITT集団における10年寛解率は、内科的治療群が5.5%(95%信頼区間[CI]:1.0~25.7、手術へクロスオーバー後に寛解を達成した1例を含む)、BPD群は50.0%(29.9~70.1)、RYGB群は25.0%(11.2~46.9、p=0.0082)であった。
2年の時点で寛解を示した34例中20例(58.8%)で、フォローアップ期間中に高血糖の再発が認められた(BPD群52.6%[95%CI:31.7~72.7]、RYGB群66.7%[41.7~84.8])。しかしながら、これらの再発例はすべて、10年の時点で適切な血糖コントロールが維持されていた(平均HbA1c:6.7%[SD 0.2])。
また、BPD群およびRYGB群は、内科的治療群に比べ糖尿病関連合併症が少なかった(相対リスク:0.07、95%CI:0.01~0.48)。
重篤な有害事象の頻度はBPD群で高かった(BPD群の内科的治療群に対するオッズ比[OR]:2.7[95%CI:1.3~5.6]、RYGB群の内科的治療群に対するOR:0.7[95%CI:0.3~1.9])。
著者は、「代謝改善手術を受けた患者の3分の1以上が米国糖尿病学会の糖尿病治癒の定義(薬物療法を必要とせずに高血糖の寛解が5年以上持続)を満たした。これは、2型糖尿病は治癒可能な疾患であること示している」とし、「臨床医と施策立案者は、肥満および2型糖尿病患者の管理において、代謝改善手術が適切に考慮されるようにすべきだろう」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)