2年ごとの医療従事者による乳房の視触診(clinical breast examination:CBE)は、CBEを行わない場合と比べ、乳がん診断時の病期を軽減し(downstaging)、50歳以上の女性の乳がんによる死亡率を約3割抑制することが、インド・Homi Bhabha National InstituteのIndraneel Mittra氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年2月24日号で報告された。マンモグラフィによる乳がんスクリーニングは、50歳以上の女性では死亡率を抑制するが、50歳未満の女性における有効性には疑問があるとされる。また、乳がん自己検診(breast self-examination)の、乳がんの早期検出法としての有効性は証明されておらず、CBEが乳がんによる死亡を低減するかについても明らかではないという。
ムンバイ市の15万人のクラスター無作為化対照比較試験
研究グループは、CBEによるスクリーニングが、CBEを行わない場合と比較して、乳がん診断時の病期を軽減させるかを検証する目的で、プロスペクティブなクラスター無作為化対照比較試験を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。
インド・ムンバイ市の地理的な境界で定義された20のクラスターを、CBEによるスクリーニングを行う群またはCBEを行わない対照群に、10クラスターずつ無作為に割り付けた。登録は1998年5月に開始され、2019年3月、解析のためにデータベースがロックされた。乳がん歴のない35~64歳の女性15万1,538人が試験に参加した。
スクリーニング群(7万5,360人)は、2年ごとに、訓練を受けた女性のプライマリケア医療従事者によるCBEを4回と、がん啓発情報の提供を受け、その後は2年ごとの自宅訪問による積極的サーベイランス(active surveillance)を5回受けた。対照群(7万6,178人)は、がん啓発情報の提供を1回受け、その後は2年ごとに積極的サーベイランスを8回受けた。
主要アウトカムは、診断時における乳がんの病期の軽減および乳がん死の低減とした。
50歳未満の乳がん死、全死因死亡には差がない
登録時の平均年齢は、スクリーニング群が44.84(SD 7.90)歳、対照群は44.92(8.00)歳であった。試験開始から20年(フォローアップ期間中央値18年)の時点で、スクリーニング群の640人、対照群の655人が乳がんと診断され、それぞれ213人および251人が乳がんによって死亡した。
乳がん検出時の年齢は、スクリーニング群が対照群よりも若かった(55.18[SD 9.10]歳vs.56.50[9.10]歳、p=0.01)。また、乳がん診断時の病期は、スクリーニング群でStageIII/IVの割合が有意に低かった(37%[220人]vs.47%[271人]、p=0.001)。この病期の軽減は、50歳未満(診断時StageIII/IVの割合:37%[161人]vs.47%[183人]、p=0.005)および50歳以上(35%[59人]vs.46%[88人]、p=0.05)のいずれにおいても認められた。
全体(35~64歳)では、スクリーニング群は対照群に比べ、乳がん死の割合が15%低下したが、有意な差は認められなかった(10万人年当たり20.82人[95%信頼区間[CI]:18.25~23.97]vs.24.62人[21.71~28.04]、率比[RR]:0.85[95%CI:0.71~1.01]、p=0.07)。
一方、事後的サブセット解析では、50歳以上の女性における乳がん死は、スクリーニング群で有意に約30%低下した(10万人年当たり24.62人[95%CI:20.62~29.76]vs.34.68人[27.54~44.37]、RR:0.71[95%CI:0.54~0.94]、p=0.02)。これに対し、50歳未満の女性では有意な差はみられなかった(19.53人[17.24~22.29]vs.21.03人[18.97~23.44]、0.93[0.79~1.09]、p=0.37)。
また、全死因死亡は、スクリーニング群で5%低下したが、有意差はなかった(RR:0.95[95%CI:0.81~1.10]、p=0.49)。
著者は、「低・中所得国では、乳がんのスクリーニング法としてCBEを考慮すべきと考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)