看護師1人当たりの患者数を最小化する施策により、死亡率、再入院率、在院日数が改善され、その結果として支出せずに済んだ費用は、看護師の増員に要した費用の2倍以上に達したことが、米国・ペンシルベニア大学のMatthew D. McHugh氏らが実施した「RN4CAST-Australia試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年5月11日号で報告された。
クイーンズランド州55病院の前向きパネル調査
研究グループは、2016年にオーストラリア・クイーンズランド州で制定された最小看護師-患者比率に関する施策が看護師の人員配置や患者転帰に及ぼす影響の評価および、同施策が人員配置と患者アウトカムに関連があるかを検討する目的で、前向きパネル調査を行った(オーストラリア・クイーンズランド州保健局などの助成による)。
クイーンズランド州の最小看護師-患者比率施策(午前と午後の勤務では1対4を超えない、夜間勤務では1対7を超えない)の対象となった病院(介入病院:27施設)と、退院患者が類似するがこの施策の対象ではない病院(対照病院:28施設)を、施策の導入前(ベースライン)と導入から2年の時点で比較した。
死亡記録と関連付けられた「標準化クイーンズランド州入院患者データ」を用いて、内科および外科病棟の患者の背景因子およびアウトカム(30日死亡、7日再入院、在院日数)のデータを取得し、施策導入の前後で対象病院の内科系および外科系の看護師1万7,010人の調査データを入手した。
看護師の調査データを用いて看護師の人員配置を評価し、標準化された患者データと関連付けた後、介入群と対照群の病院における患者転帰の変化を推定し、看護師の人員配置の変化との関連を検討した。
ベースライン(2016年)で評価を受けた患者23万1,902例(介入病院群14万2,986例、対照病院群8万8,916例)と、施策導入後(2018年)に評価を受けた患者25万7,253例(16万167例、9万7,086例)が解析に含まれた。
1対4.5以上の病院の割合が、83%から58%に低下
看護師1人当たりの平均患者数は、対照病院群ではベースラインの6.13(SD 0.75)例から施策導入後2年の時点の5.96(0.98)例へとわずかに改善し、介入病院群では4.84(1.05)例から4.37(0.54)例に改善した。
ベースラインの30日死亡率は、対照病院群に比べ介入病院群で高かった(補正後オッズ比[OR]:1.34、95%信頼区間[CI]:1.09~1.64、p=0.0052)。導入後の30日死亡率は、対照病院群ではベースラインと有意な差は認められなかった(補正後OR:1.07、95%CI:0.97~1.17、p=0.18)が、介入病院群ではベースラインに比べ有意に低下した(0.89、0.84~0.95、p=0.0003)。
ベースラインから導入後2年までに、7日再入院率は対照病院群で増加した(補正後OR:1.06、95%CI:1.01~1.12、p=0.015)のに対し、介入病院群では増加しなかった(1.00、0.95~1.04、p=0.92)。
在院日数は、両群とも導入後に減少した(対照病院群:補正後発生率比[IRR]:0.95、95%CI:0.93~0.98、p=0.0001、介入病院群:0.91、0.89~0.94、p<0.0001)が、短縮の程度は介入病院群が対照病院群よりも顕著であった(補正後OR:0.95、0.92~0.99、p=0.010)。
ベースラインから導入後2年までに、病院の人員配置に変化がみられた。人員配置に関する信頼性の高いデータを持つ36病院のうち、ベースライン時に看護師1人当たりの患者数が4.5例以上の病院は30施設(83%)であったが、導入後は21施設(58%)に減少した。
これらの変化の大部分は介入病院群によるものであり、対照病院群と比較して介入病院群では、看護師1人当たりの患者数を1例削減することで、30日死亡率(OR:0.93、95%CI:0.86~0.99、p=0.045)、7日再入院率(0.93、0.89~0.97、p<0.0001)、在院日数(IRR:0.97、95%CI:0.94~0.99、p=0.035)がいずれも有意に改善された。
また、再入院率の抑制と在院日数の短縮で支出せずに済んだ費用は、看護師の増員に要した費用の2倍以上であった。
著者は、「最小限の看護師-患者比率を確立する施策は実行可能なアプローチであり、看護師の人員配置と患者転帰を改善し、投資利益率が向上すると考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)