冠動脈バイパス術(CABG)または経皮的冠動脈インターベンション(PCI)による冠動脈血行再建術を受けた患者では、記憶力低下に関して、術式の違いによる差はないが、off-pump CABGはPCIと比較して、記憶力低下の割合が有意に高いことが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のElizabeth L. Whitlock氏らの調査で示された。JAMA誌2021年5月18日号掲載の報告。
HRSのデータを用いた後ろ向きコホート研究
研究グループは、CABGはPCIに比べ記憶力低下率が高いとの仮説を立て、これを検証する目的で後ろ向きコホート研究を行った(米国国立老化研究所などの助成による)。
解析には、米国のHealth and Retirement Study(HRS)の参加者で、1998~2015年の期間に、65歳以上の年齢でCABGまたはPCIを受けた患者のデータを使用した。血行再建術施行前の最長5年間と、施行後の10年間または死亡、脱落、2016~17年の受診までのデータがモデル化された。最終フォローアップは2017年11月だった。
主要アウトカムは、記憶力スコア(点数が高いほど複合的な記憶機能が良好)とした。記憶力スコアは、HRSで2年ごとに行われた認知検査スコアと代理人による認知報告の要約指標であり、1995年に72歳以上であったHRS参加者のzスコア(平均値0、SD 1)として標準化された。
on-pump CABGが認知機能に有益な可能性
1,680例(施術時の平均年齢75歳、女性41%)が解析に含まれた。CABG群が665例(off-pump手術168例、on-pump手術497例)、PCI群は1,015例であった。
PCI群の記憶力低下率の平均値は、施行前が0.064記憶単位/年(95%信頼区間[CI]:0.052~0.078)、施行後は0.060記憶単位/年(0.048~0.071)であった(群内の変化:0.004記憶単位/年[-0.010~0.018])。また、CABG群の記憶力低下率の平均値は、施行前が0.049記憶単位/年(0.033~0.065)、施行後は0.059記憶単位/年(0.047~0.072)であった(群内の変化:-0.011記憶単位/年[-0.029~0.008])。
差分の差分法による両群間の記憶力低下の差の推定値は0.015記憶単位/年(95%CI:-0.008~0.038)であり、有意差は認められなかった(p=0.21)。
一方、off-pump CABG群では、PCI群と比較して、記憶力低下率が統計学的に有意に増加した(差分の差分法によるoff-pump CABG施行後の記憶力低下率増加の平均値:0.046記憶単位/年[95%CI:0.008~0.084])が、on-pump CABG群はPCI群に比べ有意な増加は示さなかった(差分の差分法によるon-pump CABG施行後の記憶力低下率の減速化の平均値:0.003記憶単位/年[95%CI:-0.024~0.031])。
著者は、「PCIとCABGで、晩年期の認知機能の変化率に有意差がなかったことは、血行再建の方法が、その後の認知機能の老化の強力な規定因子ではないことを示唆する。また、off-pump CABGはPCIに比べ長期的な認知機能が劣っていたことから、on-pump CABGで達成された、より耐久性に優れ完成度の高い血行再建が、認知機能に有益な影響を与えるのではないかとの仮説がもたらされた」としている。
(医学ライター 菅野 守)