急性非代償性心不全で入院した高齢の多様な患者集団において、通常治療に加え、4つの身体機能領域を含む、早期の段階的で個別化された漸進的リハビリテーションを併用すると、通常治療単独と比較して、身体機能の改善効果が促進されるが、再入院や死亡の抑制効果には差はないことが、米国・Wake Forest School of MedicineのDalane W. Kitzman氏らが実施した「REHAB-HF試験」で示された。NEJM誌オンライン版2021年5月16日号掲載の報告。
介入による身体能力の改善効果を評価する無作為化試験
研究グループは、4つの身体機能領域を含む個別化された漸進的リハビリテーションによる早期介入は、身体機能を改善し、6ヵ月後の全原因による入院率を低下させるとの仮説を立て、これを検証する目的で単盲検無作為化対照比較試験を行った(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。
対象は、年齢60歳以上、急性非代償性心不全(駆出率の値は問わない)で入院し、登録時に補助具の有無にかかわらず4m以上の歩行が可能で、入院前は機能的に自立しており、自宅退院が期待される患者であった。
被験者は、通常治療に加えリハビリテーションによる介入を受ける群または通常治療のみを受ける群(対照群)に無作為に割り付けられた。介入は、可能な場合は入院中に開始し、退院後はできるだけ早期に外来施設の段階へと移行した。1回60分の訓練が週3回、12週間(合計36回)行われた。
介入は、急性非代償性心不全でフレイルがみられる高齢患者向けに開発された、段階的で個別化された漸進的リハビリテーションプログラムで、4つの身体機能領域(筋力、バランス能力、移動能力、持久力)に重点が置かれた。訓練の強度や種類は、患者の能力に基づき個別に設定された。本試験の重要な目標は、持久力(歩行時間)の向上であったが、これを安全に行うには、筋力、バランス能力、移動能力の障害に対処する必要があるとの方針に基づいて実施された。
主要アウトカムは、3ヵ月の時点での簡易身体能力試験(SPPB、0~12点、点数が低いほど身体機能障害が重度)のスコアとした。副次アウトカムは6ヵ月後の全原因による再入院であった。
97%がフレイル+プレフレイル、併存疾患数は5つ
2014年9月~2019年9月の期間に349例(平均年齢72.7歳、女性52%)が登録され、介入群に175例、対照群に174例が割り付けられた。ベースラインにおいて両群の患者は身体機能が著しく低下しており、97%がフレイルまたはその前段階(プレフレイル)であり、各群の平均併存疾患数は5つであった。
介入群では、介入の終了前に12例が死亡した。介入群における介入継続率は82%で、介入訓練の平均(±SE)完遂回数は24.3±1.0回、介入訓練への参加率は67±3%だった。
3ヵ月の時点におけるベースラインのSPPBスコアと他の背景因子で補正後SPPBスコアの最小二乗平均値は、介入群は8.3±0.2であり、対照群の6.9±0.2に比べ身体能力が有意に改善された(平均群間差:1.5、95%信頼区間[CI]:0.9~2.0、p<0.001)。
6ヵ月時の全原因による再入院率は、介入群が1.18、対照群は1.28であり、両群間に明確な差は認められなかった(率比[RR]:0.93、95%CI:0.66~1.19)。また、死亡は介入群で21例(心血管系の原因15例)、対照群で16例(同8例)みられ、全死因死亡率はそれぞれ0.13および0.10であり、両群間に差はなかった(RR:1.17、95%CI:0.61~2.27)。
著者は、「6分間歩行距離やフレイルの状態、QOL、抑うつについても、介入による臨床的な利益が示唆された。全原因による再入院や心不全による再入院、死亡の発生は、両群とも高率であった」としている。
(医学ライター 菅野 守)