新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による肺炎で入院した患者の治療において、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬トファシチニブはプラセボと比較して、28日以内の死亡または呼吸不全のリスクを抑制し、安全性に大きな差はないことが、ブラジル・Hospital Israelita Albert EinsteinのPatricia O. Guimaraes氏らが実施した「STOP-COVID試験」で示された。NEJM誌オンライン版2021年6月16日号掲載の報告。
ブラジル15施設の無作為化プラセボ対照比較試験
研究グループは、COVID-19肺炎入院患者の治療におけるトファシチニブの有効性と安全性を評価する目的で、二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験を行った(Pfizerの助成による)。本試験では、2020年9月16日~12月13日の期間に、ブラジルの15施設で患者登録が行われた。
対象は、年齢18歳以上、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染が確定され、画像検査(胸部CTまたはX線)でCOVID-19肺炎の証拠が認められ、入院から72時間未満の患者であった。被験者は、トファシチニブ(10mg、1日2回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられ、14日間または退院まで投与された。
主要アウトカムは、28日時点での死亡または呼吸不全とされた。米国国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の疾患重症度に関する8段階順序尺度(点数が高いほど、病態の重症度が高い)で、6点(入院中に非侵襲的換気または高流量酸素装置による換気を受けている)、7点(入院中に侵襲的機械換気または体外式膜型人工肺[ECMO]の装着を受けている)、8点(死亡)の場合に、主要アウトカムを満たすと定義された。
全死因死亡には差がない
289例が登録され、144例がトファシチニブ群、145例はプラセボ群に割り付けられ、それぞれ2例および3例が試験薬の投与を受けなかった。全体の平均年齢は56歳で、34.9%が女性であった。COVID-19の診断から無作為化までの期間中央値は5日だった。
ベースラインの全体のBMI中央値は29.7で、50.2%が高血圧、23.5%が糖尿病を有しており、75.4%が酸素補充療法、78.5%が糖質コルチコイド、77.9%が予防的抗凝固療法、20.8%が治療的抗凝固療法を受けていた。入院中に89.3%が糖質コルチコイドの投与を受けた。
28日の時点での死亡または呼吸不全の発生率は、トファシチニブ群が18.1%(26/144例)と、プラセボ群の29.0%(42/145例)に比べ有意に低かった(リスク比:0.63、95%信頼区間[CI]:0.41~0.97、p=0.04)。
28日時の全死因死亡の発生率は、トファシチニブ群が2.8%(4/144例)、プラセボ群は5.5%(8/145例)であり、両群間に差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.49、95%CI:0.15~1.63)。
プラセボ群と比較したトファシチニブ群の8段階順序尺度スコアの比例オッズは、14日の時点で0.60(95%CI:0.36~1.00)、28日時は0.54(0.27~1.06)であった。
重篤な有害事象は、トファシチニブ群が14.1%(20例)、プラセボ群は12.0%(17例)で発現した。とくに注目すべき有害事象は、トファシチニブ群で深部静脈血栓症、急性心筋梗塞、心室頻拍、心筋炎が1例ずつ認められた。重篤な感染症の発生率は、トファシチニブ群3.5%、プラセボ群4.2%であった。また、死亡を除き、試験薬投与中止の原因となった有害事象は、それぞれ11.3%および3.5%でみられ、最も頻度の高かった原因はアミノトランスフェラーゼ値上昇(4.2%、0.7%)と、リンパ球減少(2.8%、1.4%)だった。
著者は、「ACTT-2試験(バリシチニブ+レムデシビルはレムデシビル単剤に比べ、とくに高流量酸素補充または非侵襲的機械換気を受けている患者で、回復までの期間を短縮)と本試験の結果を統合すると、JAK阻害薬は、侵襲的機械換気を受けていないCOVID-19肺炎患者の新たな治療選択肢となることを示すエビデンスがもたらされた」としている。
(医学ライター 菅野 守)