KRAS阻害薬adagrasibおよびsotorasibの臨床試験では、KRASの12番目のコドンにグリシンからシステインへのアミノ酸置換(KRASG12C)が発現しているがんに対する有望な抗腫瘍活性が確認されている。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のMark M. Awad氏らは、これらのKRAS阻害薬に対する耐性獲得の機序について検討し、多様なゲノム機序および組織学的機序によって耐性がもたらされており、この薬剤耐性の発現の遅延や克服には、新たな治療戦略を要することを示した。NEJM誌2021年6月24日号掲載の報告。
adagrasib投与KRASG12C変異陽性がん患者38例を解析
研究グループは、KRYSTAL-1試験に参加しadagrasib単剤療法を受けた
KRASG12C変異陽性がん患者から治療前と耐性発現後に採取した検体を用い、adagrasib耐性の機序を解明する目的で、組織学的解析およびゲノム解析を行った(米国・Mirati Therapeuticsなどの助成による)。
また、KRAS
G12C阻害薬への耐性を付与する可能性のある第2変異(second-site mutation)を系統的に明らかにするために、
KRASG12Cミスセンス変異のライブラリを用い、網羅的突然変異スキャニング法(deep mutational scanning)によるスクリーニングを実施した。
38例が解析に含まれた。このうち27例が非小細胞肺がん、10例が大腸がん、1例が虫垂がんであった。
7例で、複数の耐性機序が同時に存在
adagrasibに対する推定上の耐性機序は17例(コホートの45%)で検出され、このうち7例(同18%)に複数の機序が同時に存在した。獲得された
KRAS変異は、G12D/R/V/W、G13D、Q61H、R68S、H95D/Q/R、Y96C、および
KRASG12C対立遺伝子の高度な増幅などであった。
また、獲得されたバイパス経路による耐性機序は、
MET増幅、
NRAS・
BRAF・
MAP2K1・
RETの活性化変異、
ALK・
RET・
BRAF・
RAF1・
FGFR3のがん遺伝子融合、
NF1および
PTENの機能喪失型変異などであった。
ペア検体が得られた肺腺がん患者の組織生検では、9例中2例で扁平上皮がんへの組織学的な形質転換がみられたが、これ以外の耐性機序は同定されなかった。さらに、
in vitroの網羅的突然変異スキャニング法によるスクリーニングでは、KRAS
G12C阻害薬に耐性を示す
KRAS変異の状況が明らかとなり、耐性変異の明確な機序のクラスと、薬剤特異的な耐性パターンが確認された。
著者は、「この研究で得られたデータは、オンターゲットおよびオフターゲットの多様な機序が、KRAS
G12C阻害薬への耐性をもたらす可能性があることを示しており、別の結合様式や異なる対立遺伝子特異性を有する新たなKRAS阻害薬を開発する必要があると考えられる。また、adagrasibやsotorasibによる治療中に発現する耐性機序に十分に対抗するには、効果的な併用療法レジメンの開発が求められる」としている。
(医学ライター 菅野 守)