ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)による死亡率は高く、とくに血小板数が低く頭蓋内出血を起こした患者で最も高いことが、英国のVITT 220例の検証の結果、明らかとなった。英国・Oxford University Hospitals NHS Foundation TrustのSue Pavord氏らが、報告した。VITTは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスSARS-CoV-2に対するChAdOx1 nCoV-19ワクチン(アストラゼネカ製)に関連した新たな症候群で、この疾患に対する臨床特性や予後に関するデータは不足していた。結果を踏まえて著者は、「治療法は不明なままであるが、予後マーカーの特定が今後の有効な管理に役立つ可能性がある」とまとめている。NEJM誌オンライン版2021年8月11日号掲載の報告。
VITT(definite/probable)220例について解析
研究グループは2021年3月22日~6月6日に、英国の病院を受診したVITTの疑いのある患者を対象に、前向きコホート研究を実施した。
匿名化された電子フォームを用いてデータを収集し、事前に定義した基準に従ってdefinite/probable VITT症例を特定し、ベースラインの患者特性と臨床病理学的特徴、リスク因子、治療、および予後不良マーカーについて解析した。
評価対象となった患者は294例で、このうち研究グループによってdefinite VITTと判定された患者は170例、probable VITT患者は50例であった。
ベースラインの血小板数と頭蓋内出血の存在が死亡リスク増加の独立因子
definite/probable VITTと判定された220例全例が、ChAdOx1 nCoV-19ワクチンの初回接種後に発症していた。ワクチン接種後発症までの日数は、5~48日(中央値14日)であった。年齢は18~79歳(中央値48歳)で、男女差はなく、特定可能な医学的リスク因子もなかった。
全体の死亡率は22%であった。死亡オッズは、脳静脈洞血栓症の患者で2.7倍(95%信頼区間[CI]:1.4~5.2)、ベースラインの血小板数が50%減少するごとに1.7倍(95%CI:1.3~2.3)、ベースラインのDダイマー値が1万FEU(フィブリノゲン換算量)増加するごとに1.2倍(95%CI:1.0~1.3)、ベースラインのフィブリノゲン値が50%低下するごとに1.7倍(95%CI:1.1~2.5)にそれぞれ増大することが示された。
多変量解析の結果、ベースラインの血小板数と頭蓋内出血の存在が死亡と独立して関連していることが認められた。観察された死亡率は、血小板数3万/mm
3かつ頭蓋内出血を認めた患者では73%であった。
なお、著者は本研究の限界について、「症例確認バイアスが潜在的な弱点として挙げられる。VITTは新しい症候群であり、病態生理が十分に理解されていないため、真のVITTではない症例が含まれている可能性や、入院時の血小板数が基準を満たしておらず見逃されてしまった症例がほかにもある可能性も考えられる」と述べている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)