重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクがある集団や、COVID-19の世界的大流行の影響を過度に受けている人種/民族集団を含む米国の医療従事者において、実臨床下でのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン(BNT162b2[Pfizer-BioNTech製]、mRNA-1273[Moderna製])の接種は、症候性COVID-19の予防に関して高い有効性を発揮し、年齢や基礎疾患、感染者との接触の程度が異なる集団でも有効率に差はないことが、米国疾病予防管理センターのTamara Pilishvili氏らVaccine Effectiveness among Healthcare Personnel Study Teamの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年9月22日号に掲載された。
米国50万人以上の医療従事者の症例対照研究
研究チームは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の検査を受けた米国の医療従事者を対象に、COVID-19の発症予防におけるmRNAワクチン接種の有効性の評価を目的に症例対照研究を実施した(米国疾病予防管理センターの助成を受けた)。本研究には、2020年12月28日~2021年5月19日の期間に、米国25州の33施設で50万人以上の医療従事者が参加した。
医療従事者の定義は、職場で感染者と直接接触する可能性がある、または感染した医療器具に間接的に接触する可能性のある、すべての有給または無報酬で医療に携わる者とされた。
症例は、COVID-19様の症状が1つ以上認められ、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査や他の核酸増幅検査、または抗原ベースの検査でSARS-CoV-2が陽性の集団とされた。対照は、症状の有無を問わず、PCRまたは検査室での他の核酸増幅検査でSARS-CoV-2陰性の集団であった。検査を行った週に各参加施設において、症例1人に対し対照3人の割合を目標にマッチングが行われた。
年齢、人種/民族、基礎疾患、COVID-19感染者との接触で補正した条件付きロジスティック回帰を用い、ワクチン非接種者との比較において、部分接種者(初回接種後14日~2回目接種後6日までに評価)および完全接種者(2回目接種後7日以降に評価)のワクチン有効率が推定された。
ワクチン有効率:77.6~96.3%、基礎疾患などのリスク因子で差はない
症例群1,482人(年齢中央値37歳、女性82%)および対照群3,449人(37歳、83%)が解析に含まれた。全体の69%が急性期病院(緊急治療部を設置)、31%は外来または専門診療施設の医療従事者であった。
症例群の76%、対照群の75%が、重症COVID-19のリスク増加と関連する基礎疾患を1つ以上有していた。最も頻度の高い基礎疾患は肥満(症例群36%、対照群31%)であり、次いで過体重(29%、28%)、喘息(14%、18%)、高血圧(15%、14%)の順だった。症例群には妊婦が62人含まれた。
ワクチン非接種者と比較した部分接種者のワクチン有効率は、BNT162b2ワクチンが77.6%(95%信頼区間[CI]:70.9~82.7)、mRNA-1273ワクチンは88.9%(78.7~94.2)であり、完全接種者ではそれぞれ88.8%(84.6~91.8)および96.3%(91.3~98.4)と、いずれも高値を示した。
年齢(50歳未満、50歳以上)、人種/民族、基礎疾患、感染者との接触の程度別のサブグループ間で、ワクチン有効率は同程度であった。また、14週の追跡期間を2週ごとに分けてワクチン有効率の推移を解析したところ、2回目接種後3~4週が96.3%と最も高く、その後徐々に低下した。3~8週よりも9~14週のほうがワクチン有効率は低かったが、9~14週はCIの範囲が広く、この2つの期間でCIはほぼ重複していた。
著者は、「これらの結果は、一般集団を対象とした2つのワクチンの第III相試験(C4591001試験[BNT162b2ワクチン]、COVE試験[mRNA-1273ワクチン])の結果と一致するとともに、これまでの観察研究で得られたエビデンスをさらに裏付けるものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)