人工呼吸器を要する重症患者において、プロバイオティクスであるLactobacillus rhamnosus GGの投与はプラセボと比較して、集中治療室(ICU)における人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発生に関して有意な改善効果はなく、有害事象の頻度は高いことが、カナダ・トロント大学のJennie Johnstone氏らの検討で示された。研究の詳細は、JAMA誌2021年9月21日号で報告された。
3ヵ国の44のICUの無作為化プラセボ対照比較試験
本研究は、ICUにおけるVAPや新たな感染症、その他の臨床的に重要なアウトカムの予防における
L. rhamnosus GG投与の有効性の評価を目的とする無作為化プラセボ対照比較試験であり、2013年10月~2019年3月の期間にカナダと米国、サウジアラビアの44のICUで患者登録が行われた(カナダ健康研究所[CIHR]などの助成による)。
対象は、年齢18歳以上、ICUの治療チームによって72時間以上の機械的換気を要すると予測された患者であった。被験者は、ICUで1日2回、
L. rhamnosus GG(1×10
10コロニー形成単位)を投与する群またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。
主要アウトカムは、二重盲検下の中央判定によるVAPの発生とされた。VAPは、2日以上の機械的換気の後に、胸部X線上で新たな進行性または持続性の浸潤所見がみられ、次の3項目のうち2つ以上を満たした場合とされた。(1)発熱(中核体温>38℃)または低体温(体温<36℃)、(2)白血球数<3.0×10
6/Lまたは>10×10
6/L、(3)膿性痰。
感染症、死亡、ICU入室日数などにも差はない
2,650例(平均年齢[SD]59.8[16.5]歳、女性40.1%)が登録され、プロバイオティクス群に1,318例、プラセボ群に1,332例が割り付けられた。平均APACHE IIスコア(ICU入室の指標0~71点、点数が高いほど重症度および死亡リスクが高い)は22.0(SD 7.8)点で、61.2%が強心薬または昇圧薬を投与され、8.1%は腎代替療法を受けていた。82.5%が、無作為化の日に抗菌薬を処方または投与されていた。試験薬の投与期間中央値は9日(IQR:5~15)だった。
VAPの発生率は、プロバイオティクス群が21.9%(289/1,318例)、プラセボ群は21.3%(284/1,332例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:1.03、95%信頼区間[CI]:0.87~1.22、p=0.73、絶対群間差:0.6%、95%CI:-2.5~3.7)。
約20項目の副次アウトカム(ICU関連感染症、下痢、死亡、ICU入室日数など)のうち、統計学的に有意な差がみられたものはなかった。
また、有害事象(無菌部位の培養での
L. rhamnosus単離、非無菌部位の培養での単独または優勢な微生物)は、プロバイオティクス群が15例(1.1%)、プラセボ群は1例(0.1%)で発現した(オッズ比:14.02、95%CI:1.79~109.58、p<0.001)。
著者は、「今回の結果は、機械的換気を要する重篤な病態の患者における、VAPの予防を目的とする
L. rhamnosus GGの使用を支持しない。これらの知見は、日常診療や施策に影響を及ぼすもので、重篤な病態へのプロバイオティクスの処方には慎重さが求められることが示唆される」としている。
(医学ライター 菅野 守)