プライマリケアにおける下気道感染症患者への抗菌薬処方に関して、プロカルシトニンによるpoint-of-care検査は通常治療と比較して、28日の時点で患者の安全性に影響を及ぼさずに抗菌薬処方を26%減少させるが、これに肺超音波によるpoint-of-care検査を加えても、それ以上の処方率の減少は得られないとの研究結果が、スイス・ローザンヌ大学病院のLoic Lhopitallier氏らによって報告された。研究の詳細は、BMJ誌2021年9月21日号に掲載された。
3群を比較するスイスの総合診療施設のクラスター無作為化試験
本研究は、プライマリケアの下気道感染症患者における、プロカルシトニンpoint-of-care検査と肺超音波point-of-care検査は安全性を保持しつつ不要な抗菌薬処方を削減できるかの検証を目的とする、スイスの実践的な非盲検クラスター無作為化試験であり、2018年9月に開始されたが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染爆発の影響で、2020年3月10日に早期中止となった(スイス国立科学財団[SNSF]などの助成による)。
本試験には、スイスの60の総合診療施設から、それぞれ1人の総合診療医(肺炎の診断にプロカルシトニンpoint-of-care検査や肺超音波point-of-care検査を使用した経験がない医師)が参加した。総合診療医は、急性咳嗽(≦21日)を呈する年齢18歳以上の患者をスクリーニングし、臨床的肺炎(急性咳嗽のほか、4日以上持続する発熱、呼吸困難、頻呼吸[>22回/分]、異常肺音の聴診のうち1つ以上を呈する)と診断した患者を選出した。
60の総合診療施設は、次の3つの群に20施設ずつ無作為に割り付けられた。(1)プロカルシトニンpoint-of-care検査を行い、濃度上昇(≧0.25μg/L)がみられた場合は、引き続き肺超音波point-of-care検査を行い、肺のコンソリデーションを認めた場合にのみ、抗菌薬の処方を推奨する群(UltraPro群)、(2)プロカルシトニンpoint-of-care検査を行い、濃度上昇(≧0.25μg/L)がみられた場合にのみ、抗菌薬の処方を推奨する群(プロカルシトニン群)、(3)通常治療群。
主要アウトカムは、28日の時点における抗菌薬処方が行われた患者の割合とされた。副次アウトカムは、14日以内における下気道感染症による活動制限の期間などであった。
抗菌薬処方率:41% vs.40% vs.70%、活動制限の非劣性は証明できず
各群20人の総合診療医のうち、女性医師はUltraPro群が8人、プロカルシトニン群が8人、通常治療群が9人で、10年以上の臨床経験を持つ医師はそれぞれ8人、11人、10人だった。
解析に含まれた患者は469例(UltraPro群152例、プロカルシトニン群195例、通常治療群122例、intention-to-treat集団)で、このうち435例(93%)が電話によるフォローアップを完了した。全体の年齢中央値は53歳(IQR:38~66)、59%が女性であった。
UltraPro群では、9例(6%)がプロカルシトニン濃度≧0.25μg/Lであり、引き続き肺超音波検査を受けた。6例(67%)で肺浸潤影が確認された。肺超音波検査の所要時間中央値は15分(IQR:15~20)だった。プロカルシトニン群では、19例(10%)がプロカルシトニン濃度≧0.25μg/Lであった。
プロカルシトニン群は通常治療群に比べ、28日までの抗菌薬処方率が低かった(0.4[78/195例]vs.0.7[86/122例]、クラスター補正後群間差:-0.26[95%信頼区間[CI]:-0.41~-0.10]、オッズ比[OR]:0.29[95%CI:0.13~0.65]、p=0.001)。
UltraPro群とプロカルシトニン群には、28日の時点での抗菌薬処方率に差は認められなかった(0.41[62/152例]vs.0.40[78/195例]、クラスター補正後群間差:-0.03[95%CI:-0.17~0.12]、OR:0.89[95%CI:0.43~1.67]、p=0.71)。
14日までの活動制限日数中央値は、プロカルシトニン群が4日、通常治療群は3日であり(群間差:1日[95%CI:-0.23~2.32]、ハザード比[HR]:0.75[95%CI:0.58~0.97])、95%CIの上限値が事前に規定された非劣性マージンを超えたためプロカルシトニン群の通常治療群に対する非劣性は証明されなかった。UltraPro群とプロカルシトニン群にも差はみられなかった(4日vs.4日、群間差:0日[95%CI:-1.48~1.43]、HR:1.01[95%CI:0.80~1.29])。
抗菌薬の処方が減少しても、患者の臨床アウトカムや満足度に影響はなかった。
著者は、「肺超音波point-of-care検査からは、さらなる抗菌薬処方の減少は得られなかったが、CIの範囲が広いことから、肺超音波が新たな価値をもたらす可能性は排除できない」としている。
(医学ライター 菅野 守)