安定冠動脈疾患(CHD)では、精神的ストレス(人前でのスピーチで誘発し測定)による心筋虚血を有する患者は、このような虚血がない患者と比較して、心血管死/非致死的心筋梗塞のリスクが有意に高く、精神的ストレスによる虚血と運動などの従来型の負荷試験による虚血の双方を呈する患者は、従来型の負荷試験による虚血のみの患者に比べ、同リスクが増加していることが、米国・エモリー大学のViola Vaccarino氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2021年11月9日号に掲載された。
米国の前向きコホート研究の統合解析
研究グループは、CHD患者における有害な心血管イベントの発生に、精神的ストレスよる心筋虚血や従来型の負荷試験による心筋虚血が関連するかの評価を目的に、米国の2つの前向きコホート研究の統合解析を行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成を受けた)。
解析には、2011年6月~2016年3月の期間に、アトランタ市の大学ベースの病院ネットワークが実施した、同様のプロトコールを持つ2つの試験(Mental Stress Ischemia Prognosis Study[MIPS]、Myocardial Infarction and Mental Stress Study 2[MIMS2])に登録された安定CHD患者が含まれた。MIPSには、年齢30~79歳でCHDの既往歴のある集団、MIMS2には、過去8ヵ月以内に心筋梗塞による入院歴があり、心筋梗塞発症時の年齢が18~60歳の集団が含まれた。
被験者は、標準化された精神的負荷試験(2分の準備後に、少なくとも4人の聴衆[評価者]の前で3分のスピーチを行う)および従来型の負荷試験(運動[標準的なBruceプロトコール]、運動ができない場合は薬剤[regadenoson]の投与)を受け、単一光子放射断層撮影法(SPECT)を用いて心筋血流が撮像された。
主要エンドポイントは、心血管死と非致死的な初発/再発心筋梗塞の複合とされた。
臨床での有用性の評価には、さらなる研究が必要
918例(平均年齢60歳、女性34%)が解析の対象となった。618例がMIPS、300例はMIMS2の参加者だった。このうち、147例(16%)で精神的ストレスによる心筋虚血が、281例(31%)で従来型負荷試験による心筋虚血が認められ、96例(10%)では両方がみられた。追跡期間中央値は5年で、この間に主要エンドポイントが156例で発現した。
主要エンドポイントのイベント発生率は、精神的ストレスによる虚血がみられた患者で100人年当たり6.9、精神的ストレスによる虚血がない患者では100人年当たり2.6であった。精神的ストレスによる虚血がある患者の、精神的ストレスによる虚血がない患者に対する、多変量で補正後のハザード比(HR)は2.5(95%信頼区間[CI]:1.8~3.5)であり、精神的ストレスによる虚血は主要エンドポイントのリスクが高いことが示された。
イベント発生のリスクは、虚血がみられない患者(イベント発生率2.3/100人年)と比較して、精神的ストレスによる虚血のみがみられる患者(4.8/100人年、HR:2.0、95%CI:1.1~3.7)で有意に高く、精神的ストレスによる虚血と従来型負荷試験による虚血の両方がみられる患者(8.1/100人年、3.8、2.6~5.6)も同様に高リスクであった。一方、従来型負荷試験による虚血のみがみられる患者(3.1/100人年、1.4、0.9~2.1)では、虚血のない患者に比べ有意なリスク上昇は認められなかった。
また、精神的ストレスによる虚血と従来型負荷試験による虚血の双方を呈する患者は、従来型負荷試験による虚血のみの患者に比べ、主要エンドポイントのリスクが高かった(HR:2.7、95%CI:1.7~4.3)。
主要エンドポイント(心血管死、非致死的心筋梗塞)に心不全による入院を加えた副次エンドポイントのイベントは319例で発現した。イベント発生率は、精神的ストレスによる虚血がみられる患者が12.6/100人年と、精神的ストレスによる虚血がない患者の5.6/100人年に比べて高かった(補正後HR:2.0、95%CI:1.5~2.5)。
著者は、「これらの知見は、心筋虚血のメカニズムの本質に迫る洞察をもたらす可能性があるが、精神的ストレスによる虚血の検査が臨床現場で有用かを評価するには、さらなる研究を要する」としている。
(医学ライター 菅野 守)