HER2低発現の再発・転移のある乳がん患者において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は医師選択の化学療法と比較し、無増悪生存(PFS)期間および全生存(OS)期間を有意に延長させることが、第III相臨床試験「DESTINY-Breast04試験」で示された。米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのShanu Modi氏らが報告した。HER2の増幅や過剰発現を伴わない乳がんの中には、治療の標的となる低レベルのHER2を発現しているものが多く存在するが、現在用いられているHER2療法はこれら「HER2低発現」のがん患者には効果がなかった。NEJM誌オンライン版2022年6月5日号掲載の報告。
T-DXdの有効性および安全性を医師選択化学療法と比較
研究グループは、2018年12月27日~2021年12月31日の期間に、1~2ラインの化学療法歴があるHER2低発現(IHCスコア1+、またはIHCスコア2+かつISH-)の再発・転移のある乳がん患者を、T-DXd群または化学療法群(カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ナブパクリタキセルのいずれかを医師が選択)に、2対1の割合で無作為に割り付けた。
主要評価項目は、盲検化独立中央評価委員会(BICR)判定によるホルモン受容体(HR)陽性患者におけるPFS、主要な副次評価項目は全例におけるPFS、HR陽性患者および全例におけるOSであった。
HR陽性例でも全例でも、T-DXdでPFSが約1.9倍、OSが約1.4倍に
無作為化された患者557例のうち、494例(88.7%)がHR陽性、63例(11.3%)がHR陰性であった。
HR陽性患者におけるPFS期間中央値はT-DXd群10.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.5~11.5)、化学療法群5.4ヵ月(4.4~7.1)であり(ハザード比[HR]:0.51、95%CI:0.40~0.64、層別log-rank検定のp<0.001)、OS期間中央値はそれぞれ23.9ヵ月(95%CI:20.8~24.8)、17.5ヵ月(15.2~22.4)であった(HR:0.64、95%CI:0.48~0.86、p=0.003)。
また、全例におけるPFS期間中央値はT-DXd群9.9ヵ月(95%CI:9.0~11.3)、化学療法群5.1ヵ月(4.2~6.8)であり(HR:0.50、95%CI:0.40~0.63、p<0.001)、OS期間中央値はそれぞれ23.4ヵ月(20.0~24.8)、16.8ヵ月(14.5~20.0)であった(HR:0.64、95%CI:0.49~0.84、p=0.001)。
Grade3以上の有害事象の発現率はT-DXd群52.6%、化学療法群67.4%であり、T-DXd群では薬剤関連間質性肺疾患/肺炎が12.1%(Grade5が0.8%)に発現した。
(医学ライター 吉尾 幸恵)