変形性膝関節症(膝OA)に対するヒアルロン酸関節内注射(関節内補充療法)は、プラセボと比較して痛みの軽減効果はわずかであり、両者間の臨床的意義のある差はごくわずかであるという強力で決定的なエビデンスが示されたと、カナダ・St. Michael’s HospitalのTiago V. Pereira氏らがシステマティック・レビューとメタ解析の結果、報告した。また、同様に強力で決定的なエビデンスとして、関節内補充療法はプラセボと比較して重篤な有害事象のリスク増加と関連することも示されたという。関節内補充療法は、50歳以上の膝OAの治療に用いられているが、その有効性と安全性についてはいまだ論争の的となっている。直近では、治療効果が従前に報告されたものよりも小さい可能性があるとのエビデンスが示唆されていた。著者は、「今回の検討結果は、膝OAの治療としての関節内補充療法の多用を支持しないものであった」とまとめている。BMJ誌2022年7月6日号掲載の報告。
大規模プラセボ対照無作為化試験についてメタ解析
研究グループは、膝OA患者の痛みと機能に関する関節内補充療法の有効性と安全性を評価するため、無作為化試験を対象としたシステマティック・レビューとメタ解析を行った。
Medline、Embase、the Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)のデータベースで、各媒体創刊~2021年9月11日について検索。また、灰色文献(grey literature)と試験レジストリで未発表試験を特定した。適格試験は、膝OA治療として関節内補充療法とプラセボまたは未介入を比較した無作為化試験であった。
2人の研究者がそれぞれ関連データを抽出し、コクランバイアスリスクツールを用いて試験のバイアスリスクを評価した。事前規定の主要解析は、大規模プラセボ対照試験(各群被験者100例以上)のみをベースとして行った。要約結果は、ランダム効果メタ解析モデルにより入手し、ランダム効果モデル下で、累積メタ解析と逐次解析を行った。
事前規定の主要アウトカムは、痛みの強度。副次アウトカムは、機能および重篤な有害事象であった。痛みと機能は標準化平均差(SMD)で解析し、事前規定の臨床的意義のある群間最小差は-0.37SMDとした。重篤な有害事象は、相対リスクで解析した。
痛みの強度の群間差は-0.08、重篤な有害事象リスク1.49倍
169試験・無作為化を受けた被験者2万1,163例のデータが特定された。
痛みと機能について、小規模試験の影響と出版バイアスのエビデンス(Egger’s検定のp<0.001、ファンネルプロットが非対称)が認められた。
24の大規模プラセボ対照試験(無作為化を受けた被験者8, 997例)において、関節内補充療法群はプラセボ群と比較して痛みの強度の低下は小さく(SMD:-0.08、95%信頼区間[CI]:-0.15~-0.02)、臨床的意義のある群間最小差を満たすことがないばかりか95%CI下限値をみても、わずかであった。その効果は、視覚的アナログスケールでみると群間スコア差は-2.0mm(95%CI:-3.8~-0.5)であった。また逐次解析で、2009年以降の痛みの試験について、関節内補充療法vs.プラセボの臨床的同等性の決定的なエビデンスがあることが示された。
同様の結果は、機能についても確認された。
重篤な有害事象リスクは、15の大規模プラセボ対照試験(無作為化を受けた被験者6,462例)において、関節内補充療法がプラセボよりも統計学的に有意に高いことが認められた(相対リスク:1.49、95%CI:1.12~1.98)。
(ケアネット)
Pereira TV, et al. BMJ. 2022;378:e069722.