CABG後の静脈グラフト不全リスク、DAPTで回避できるか/JAMA

冠動脈バイパス術(CABG)を受けた患者の抗血小板療法において、アスピリンにチカグレロルを加えた抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)はアスピリン単剤療法と比較して、静脈グラフト不全のリスクが有意に低い一方で、臨床的に重要な出血のリスクは有意に高く、チカグレロル単剤とアスピリン単剤の比較ではこのような差はないことが、オーストリア・ウィーン医科大学のSigrid Sandner氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2022年8月9日号に掲載された。
4つの無作為化臨床試験のメタ解析
研究グループは、CABG術後の抗血小板療法による静脈グラフト不全のリスクの抑制効果を、チカグレロルDAPTまたはチカグレロル単剤療法と、アスピリン単剤療法で比較する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(研究費は、米国Weill Cornell Medicine心臓胸部外科の内部資金による)。2022年6月1日の時点で、医学関連データベース(MEDLINE、Embase、Cochrane Library)に登録された文献(記述言語は問わない)が検索された。対象は、伏在静脈グラフト不全に対する抗血小板療法の効果を、チカグレロルDAPTまたはチカグレロル単剤療法と、アスピリン単剤療法で比較した無作為化臨床試験であった。
主要アウトカムは、伏在静脈グラフト当たりのグラフト不全であった。グラフト不全は、個々の試験プロトコルで規定されたフォローアップ時に、侵襲的血管造影またはCT血管造影で評価された伏在静脈グラフトの50%以上の閉塞または狭窄と定義された。副次アウトカムは、患者当たりの伏在静脈グラフト不全およびBARC(Bleeding Academic Research Consortium)出血基準でタイプ2、3、5の出血とされた。
4つの無作為化臨床試験(TAP-CABG[2016年]、DACAB[2018年]、TARGET[2022年]、POPular CABG[2020年])に参加した1,316例(1,668個の伏在静脈グラフト)が解析の対象となった。
グラフト不全:11.2% vs.20%、タイプ2、3、5出血:22.1% vs.8.7%
主解析には、チカグレロル単剤について検討したTARGET試験と、DACAB試験の1群を除く871例が含まれ、このうち435例(527個の伏在静脈グラフト、年齢中央値67歳[IQR:60~72]、女性65例[14.9%]、治療期間中央値365日[IQR:307~365])がチカグレロルDAPT(すべてチカグレロル+アスピリン)群、436例(537個、66歳[61~73]、63例[14.5%]、364日[315~365])はアスピリン単剤群であった。伏在静脈グラフト当たりのグラフト不全の発生率は、チカグレロルDAPT群が11.2%(54/481グラフト)と、アスピリン単剤群の20.0%(99/494グラフト)に比べ有意に低かった(群間差:-8.7%[95%信頼区間[CI]:-13.5~-3.9]、オッズ比[OR]:0.51[95%CI:0.35~0.74]、p<0.001)。
また、患者当たりのグラフト不全の発生率は、チカグレロルDAPT群が13.2%(52/394例)、アスピリン単剤群は23.0%(92/400例)であり、チカグレロルDAPT群で有意に優れた(群間差:-9.7%[95%CI:-14.9~-4.4]、OR:0.51[95%CI:0.35~0.74]、p<0.001)。
これに対し、BARC出血基準タイプ2、3、5の出血イベントの発生率は、チカグレロルDAPT群が22.1%(96/452例)と、アスピリン単剤群の8.7%(38/436例)に比し有意に高かった(群間差:13.3%[95%CI:8.6~18.0]、OR:2.98[95%CI:1.99~4.47]、p<0.001)が、タイプ3、5の出血イベントの発生率には差がなかった(1.8%[8/435例]vs.1.8%[8/436例]、群間差:0%[95%CI:-1.8~1.8]、OR:1.00[95%CI:0.37~2.69]、p=0.99)。
一方、チカグレロル単剤とアスピリン単剤の比較(DACAB試験とTARGET試験)では、伏在静脈グラフト当たりのグラフト不全(19.3%[71/368グラフト]vs.21.7%[83/383グラフト]、群間差:-2.6%[95%CI:-9.1~3.9]、OR:0.86[95%CI:0.58~1.27]、p=0.44)、患者当たりのグラフト不全(25.2%[64/254例]vs.29.3%[75/256例]、-4.1%[95%CI:-11.9~3.7]、0.81[95%CI:0.55~1.20]、p=0.30)、およびBARC出血基準タイプ2、3、5の出血イベント(8.9%[26/293例]vs.7.3%[21/289例]、1.7%[-2.8~6.1]、1.25[0.69~2.29]、p=0.46)の発生率は、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。
著者は、「チカグレロルDAPTはアスピリン単剤に比べ、BARC出血基準タイプ2~5のリスクが有意に高く(22.3% vs.8.7%、p<0.001)、有意差はないものの全死因死亡のリスクが上昇する傾向がみられた(2.1% vs.0.9%、p=0.17)。今回の解析結果からは、CABG術後に、アスピリンにチカグレロルを追加するか否かを決める際には、グラフト不全、虚血性イベント、出血に関する個別の患者のリスクを、慎重に検討する必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)
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