冠動脈疾患のバイナリ診断では、疾患の複雑性が保持されず、重症度や死亡リスクを定量化できないため、冠動脈疾患の定量的マーカーの確立が求められている。米国・マウント・サイナイ・アイカーン医科大学のIain S. Forrest氏らは、電子健康記録(EHR)に基づく機械学習を用いて、動脈硬化と死亡リスクを連続スペクトルで非侵襲的に定量化し、過小診断された患者の特定が可能な冠動脈疾患のin-silicoマーカー「ISCAD」を開発した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年12月20日号で報告された。
定量的マーカーとしてのISCADを評価するコホート研究
研究グループは、機械学習モデルに基づく確率から導出される冠動脈疾患の定量的マーカーの評価を目的にコホート研究を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。
2つの大規模なバイオバンク(BioMe Biobank、UK Biobank)の参加者9万5,935人のEHRを用いて冠動脈疾患を検出する機械学習モデルを開発・検証し、ISCADスコア(0[確率が最も低い]~1[確率が最も高い])としてその蓋然性を評価した。
さらに、ISCADと臨床アウトカム(冠動脈狭窄、閉塞性冠動脈疾患、多枝冠動脈疾患、全死因死亡、冠動脈疾患の後遺症)の関連について検討した。
高ISCAD/未診断者の46%が、ACC/AHAガイドラインを満たした
9万5,935人のうち、3万5,749人がBioMe Biobank(年齢中央値61歳、男性41%、冠動脈疾患診断率14%)、6万186人はUK Biobank(62歳、42%、14%)の参加者であった。
このモデルは、BioMe Biobankの検証セットとホールドアウトセットで、受信者動作特性(ROC)曲線下面積(AUC)がそれぞれ0.95(95%信頼区間[CI]:0.94~0.95、感度:0.94[95%CI:0.94~0.95]、特異度:0.82[95%CI:0.81~0.83])および0.93(95%CI:0.92~0.93、感度:0.90[0.89~0.90]、特異度:0.88[0.87~0.88])であった。また、UK Biobankの外部テストセットでは、ROC AUCは0.91(95%CI:0.91~0.91、感度:0.84[0.83~0.84]、特異度:0.83[0.82~0.83])だった。
ISCADは、既知のリスク因子、リスク予測式(pooled cohort equations)、多遺伝子リスクスコアから、冠動脈疾患のリスクを把握することができた。閉塞性冠動脈疾患、多枝冠動脈疾患、主要な冠動脈(左冠動脈主幹部、左前下行枝近位部など)の狭窄のリスクを含め、冠動脈狭窄はISCADの四分位数が上昇するに従って定量的に増加した(四分位ごとに12ポイントの増加)。
全死因死亡のハザード比(HR)と有病率は、ISCADの十分位数の上昇に従って段階的に増加した(第1十分位数のHR:1.0[95%CI:1.0~1.0]、有病率:0.2%、第6十分位数のHR:11[3.9~31]、有病率:3.1%、第10十分位数のHR:56[20~158]、有病率:11%)。冠動脈疾患の後遺症としての心筋梗塞の再発にも、同様の傾向が観察された。
高ISCAD(≧0.9)で冠動脈疾患の診断を受けていない26人と、傾向スコアでマッチさせた低ISCAD(≦0.1)で冠動脈疾患の診断を受けていない26人(全体の年齢中央値73歳、男性40%)で検討したところ、高ISCADの未診断者のうち12人(46%)が、米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)作業部会による2014年版ガイドラインの冠動脈疾患の臨床的エビデンスを満たした。
著者は、「機械学習に基づく冠動脈疾患の定量的マーカーの導入は、患者の病態と臨床アウトカムの定義に有益で、疾患の検出を最適化し、過小診断を抑制する可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)