広範囲脳梗塞患者の治療において、血管内血栓回収療法と標準的な内科的治療の併用は内科的治療単独と比較して、身体機能が有意に改善する一方で、手技に関連した血管合併症の増加を伴うことが、米国・ケース・ウエスタン・リザーブ大学のAmrou Sarraj氏らが実施した「SELECT2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年2月10日号に掲載された。
中間解析で有効中止
SELECT2試験は、米国、カナダ、欧州、オーストラリア、ニュージーランドの31施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2019年9月~2022年9月の期間に患者のスクリーニングが行われた(Stryker Neurovascularの助成を受けた)。
対象は、年齢18~85歳、内頸動脈または中大脳動脈M1セグメント、あるいはこれら双方の閉塞による急性期脳梗塞で、発症から24時間以内であり、虚血コア体積が大きい(Alberta Stroke Program Early CTスコア[ASPECTS、0~10点、点数が低いほど梗塞が広範囲]が3~5点)、あるいはCT灌流画像またはMRI拡散強調画像でコア体積が50mL以上、脳梗塞発症前の修正Rankin尺度スコア(0~6点、点数が高いほど機能障害が重度、6点は死亡)が0または1点(機能障害なし)の患者であった。
被験者は、血管内血栓回収療法+内科的治療を行う群、または内科的治療のみを受ける群に無作為に割り付けられた。主要アウトカムは、90日の時点での修正Rankin尺度スコアであった。
本試験は、中間解析の結果に基づくデータ・安全性監視委員会の勧告により、有効中止となった。
機能的独立や独立歩行も良好、症候性頭蓋内出血は1例のみ
352例(年齢中央値66.5歳[四分位範囲[IQR]:58~75]、女性41.2%)が登録され、178例が血栓回収療法群、174例は内科的治療群に割り付けられた。全体のNIHSSスコア中央値は19点(IQR:15~23)、最終健常確認時刻から無作為化までの間隔の中央値は9.31時間(IQR:5.66~15.33)、ASPECTS中央値は4点(IQR:3~5)、平均推定虚血コア体積は80mLであった。
90日時の修正Rankin尺度スコア中央値は、血栓回収療法群が4点(IQR:3~6)、内科的治療群は5点(4~6)であった。修正Rankin尺度スコアの分布が、血栓回収療法群でより良好な方向へと転換する一般化オッズ比(OR)は1.51(95%信頼区間[CI]:1.20~1.89)であり、統計学的に有意だった(p<0.001)。
90日時に機能的独立(修正Rankin尺度スコア:0~2点)が達成された患者の割合は、血栓回収療法群が20.0%、内科的治療群は7.0%であった(相対リスク[RR]:2.97、95%CI:1.60~5.51)。また、独立歩行(修正Rankin尺度スコア:0~3点)は、それぞれ37.9%、18.7%で達成された(RR:2.06、95%CI:1.43~2.96)。血栓回収療法群の再灌流成功割合は79.8%だった。
90日時の全死因死亡率は、血栓回収療法群が38.4%、内科的治療群は41.5%であった(RR:0.91、95%CI:0.71~1.18)。24時間以内の症候性頭蓋内出血は、それぞれ1例(0.6%)、2例(1.1%)と、両群とも少なかった(RR:0.49、95%CI:0.04~5.36)。
血栓回収療法群では、約2割の患者で手技に関連した合併症が発生した。動脈アクセス部位の合併症が5例(閉塞3例[1.7%]、血腫1例[0.6%]、感染症1例[0.6%])で、血管の解離が10例(5.6%)、脳血管の穿孔が7例(3.9%)、一過性の血管攣縮が11例(6.2%)で認められた。
著者は、「これらの結果は、ベースラインの画像所見で虚血コアが大きい広範囲脳梗塞患者への血栓回収療法の適応拡大を支持するものと考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)