アデノ随伴ウイルスベクターを用いてBドメイン欠損第VIII因子のコード配列を送達し、重症血友病A患者の出血を予防するとされるvaloctocogene roxaparvovecについて、安全性と有効性を検証した第III相非盲検単群試験「GENEr8-1試験」の結果が、南アフリカ共和国・ウィットウォーターズランド大学のJohnny Mahlangu氏らにより示された。本薬投与から2年の時点で治療を要する出血の発生率は大幅に低下し、52週以降に新たな安全性シグナルの発現は認められなかったという。研究の成果は、NEJM誌2023年2月23日号に掲載された。
単回投与から104週後の治療を要する出血イベントを評価
GENEr8-1試験は、少なくとも6ヵ月間の第VIII因子による定期補充療法を受けている重症血友病Aの男性患者(年齢18歳以上)134例を対象とする第III相非盲検単群試験であり、valoctocogene roxaparvovec投与から49~52週の時点で、ベースラインに比べ有意に高い第VIII因子活性が示され、治療を要する出血エピソードや第VIII因子の使用の頻度が有意に減少したことがすでに報告されている(BioMarin Pharmaceuticalの助成を受けた)。
参加者は、6×10
13ベクターゲノム/kg体重のvaloctocogene roxaparvovecの単回投与を受けた。今回の主要エンドポイントは、本薬投与から104週の時点における、治療を要する出血イベントの年間発生率のベースラインからの変化量であった。
本薬の薬物動態をモデル化し、導入遺伝子由来の第VIII因子活性と関連付けて出血リスクを推定した。
5年後の第VIII因子活性は軽症例の表現型と一致
valoctocogene roxaparvovecによる遺伝子導入から104週の時点で、134例中132例が試験を継続しており、112例がベースラインの時点で前向きに収集されたデータを有していた。追跡期間中央値は110.9週(範囲:66.1~197.4)だった。
治療を要する出血の平均年間発生率は、ベースラインでの4.8件と比較して104週時には0.8件と、84.5%低下した(p<0.001)。第VIII因子の使用は、ベースライン時の3,961.2 IU/kg/年から104週時には69.9 IU/kg/年へと、98.2%減少した(-3,891.3 IU、95%信頼区間[CI]:-4,221.0~-3,561.5、p<0.001)。
モデルで推定された導入遺伝子由来の第VIII因子産生系の半減期は123週間(95%CI:84~232)であった。また、260週時の発色合成基質法で測定した第VIII因子の推定値(平均値:11.8 IU/dL、中央値:5.7 IU/dL)は、軽症血友病Aの表現型と一致していた。
関節出血のリスクは、導入遺伝子由来の第VIII因子が5 IU/dLの場合に、関節出血エピソードの発生は年間1.0件と予測された。
投与から2年の時点で、新たな安全性シグナルは観察されなかった。最も頻度の高い有害事象はアラニンアミノトランスフェラーゼ値の上昇で、参加者の88.8%で認められ、上昇の期間中央値は21.0日(範囲:1~498)だった。重篤な治療関連有害事象は24例(17.9%)で発現し、このうち5例(3.7%)がvaloctocogene roxaparvovec関連であったが、いずれも52週までにみられており、52週以降には新たな重篤な治療関連有害事象は発現していなかった。
著者は、「現在、本試験と他試験の参加者の追跡が進められており、投与後15年までの参加者における本薬の有効性に関して、新たな知見が得られると考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)