先行研究で24時間自由行動下血圧は、診察室血圧よりも包括的な血圧の評価が可能であり、診察室血圧や家庭血圧に比べ健康アウトカムをよりよく予測すると報告されている。英国・オックスフォード大学のNatalie Staplin氏らは、今回、スペインのレジストリーデータを用いた検討で、とくに夜間の自由行動下血圧は診察室血圧と比較して、全死因死亡や心血管死のリスクに関して有益な情報をもたらすことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年5月5日号に掲載された。
約6万例で血圧と死亡の関連を評価するコホート研究
研究グループは、高血圧の評価のためにプライマリケア施設を受診した患者において、診察室血圧および24時間自由行動下血圧と、全死因死亡および心血管死との関連を評価する目的で、観察コホート研究を行った(スペイン高血圧学会などの助成を受けた)。
解析には、Spanish Ambulatory Blood Pressure Registry(スペイン全17州の国民保健システムに登録された223ヵ所のプライマリケア施設の医師によって選択された患者)の2004年3月1日~2014年12月31日の診察室血圧と自由行動下血圧のデータが使用された。対象は、年齢18歳以上、ガイドラインで自由行動下血圧測定が推奨される患者(白衣高血圧が疑われる患者、難治性または治療抵抗高血圧の患者など)であった。
死亡例の血圧の測定値について、五分位数で定義される5つの群に分けて解析が行われた。
5万9,124例(平均年齢58.7[SD 14.1]歳、女性47.0%、平均診察室血圧148.0/86.5mmHg、平均24時間自由行動下血圧128.8/76.2mmHg)が登録され、フォローアップ期間中央値9.7年の時点で7,174例(12.1%)が死亡した。
白衣高血圧は死亡と関連しない
ベースラインにて5分位数で定義された5群のうち血圧の値が上位の4群では、24時間自由行動下収縮期血圧(1SD上昇当たりのハザード比[HR]:1.41、95%信頼区間[CI]:1.36~1.47)が診察室収縮期血圧(1.18、1.13~1.23)よりも、全死因死亡との関連が強かった。
診察室血圧で補正後も、24時間自由行動下血圧は全死因死亡との間に強い関連が認められた(HR:1.43、95%CI:1.37~1.49)。一方、24時間自由行動下血圧で補正すると、診察室血圧の全死因死亡との関連は減弱した(1.04、1.00~1.09)。
診察室収縮期血圧と比較した情報の有益性(予測能)は、夜間の自由行動下血圧が最も優れ、全死因死亡が591%、心血管死は604%であった。
これらの知見は、ベースライン時に高血圧治療を受けていた患者(59%)、受けていなかった患者(41%)、全年齢層、男性・女性のすべてで一貫して認められた。
また、正常範囲内の血圧と比較して、全死因死亡リスクの上昇が仮面高血圧(診察室血圧が正常で24時間自由行動下血圧が上昇)(HR:1.24、95%CI:1.12~1.37)と持続性高血圧(1.24、1.15~1.32)で認められたが、白衣高血圧(診察室血圧が上昇、24時間自由行動下血圧は正常)ではみられなかった。同様に、心血管死リスクの上昇も仮面高血圧(1.37、1.15~1.63)と持続性高血圧(1.24、1.15~1.32)で確認されたが、白衣高血圧ではみられなかった。
著者は、「夜間血圧と死亡との強い関連は、とくに高リスク患者における夜間血圧の評価と管理の必要性を強調するものである」とし、「仮面高血圧に関連する死亡リスクは、これらの患者は通常、診察室血圧のみのスクリーニングでは発見されないことから懸念がある。白衣高血圧と死亡リスクの増加に関連がなかった点は心強いが、これらの患者の多くは持続性高血圧に移行すると考えられる」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)