性腺機能低下症の中高年男性で、心血管疾患を有するか、そのリスクが高い集団において、テストステロン(ゲル剤)補充療法は、心血管系の複合リスクがプラセボに対し非劣性で、有害事象の発現率は全般に低いことが、米国・クリーブランドクリニックのA Michael Lincoff氏らが実施した「TRAVERSE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年6月16日号に掲載された。
米国の無作為化プラセボ対照非劣性試験
TRAVERSE試験は、米国の316施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照非劣性第IV相試験であり、2018年5月23日に患者の登録が開始された(AbbVieなどの助成を受けた)。
対象は、年齢45~80歳、心血管疾患を有するかそのリスクが高く、性腺機能低下症の症状がみられ、2回の検査で空腹時テストステロン値が300ng/dL未満の男性であった。
被験者は、1.62%テストステロンゲルまたはプラセボゲルを毎日経皮的に投与する群に、無作為に割り付けられた。
心血管系の安全性の主要エンドポイントは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合であった。ハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)の上限値が1.5未満の場合に非劣性と判定された。
感度分析でも非劣性を示す
最大の解析対象集団5,204例のうち、2,601例(平均[±SD]年齢63.3±7.9歳、血清テストステロン中央値227ng/dL)がテストステロン群に、2,603例(63.3±7.9歳、227ng/dL)はプラセボ群に割り付けられた。平均(±SD)投与期間は、テストステロン群が21.8±14.2ヵ月、プラセボ群は21.6±14.0ヵ月、平均フォローアップ期間はそれぞれ33.1±12.0ヵ月、32.9±12.1ヵ月であった。
心血管系の安全性の主要エンドポイントは、テストステロン群が2,596例中182例(7.0%)、プラセボ群は2,602例中190例(7.3%)で発生し(HR:0.96、95%CI:0.78~1.17、非劣性のp<0.001)、テストステロン群のプラセボ群に対する非劣性が示された。
また、主要感度分析(最終投与から365日以降に発生したイベントのデータは打ち切り)では、主要エンドポイントはテストステロン群が154例(5.9%)、プラセボ群は152例(5.8%)で発生し(HR:1.02、95%CI:0.81~1.27、非劣性のp<0.001)、非劣性が確認された。
心血管系の副次複合エンドポイント(主要エンドポイント+冠動脈血行再建[PCIまたはCABG])の発生は、テストステロン群が269例(10.4%)、プラセボ群は264例(10.1%)であり、臨床的に意義のある明らかな差は認められなかった(HR:1.02、95%CI:0.86~1.21)。主要エンドポイントの各項目の発生率は、いずれも両群で同程度であった。
前立腺がんが、テストステロン群の12例(0.5%)、プラセボ群の11例(0.4%)で発現した(p=0.87)。前立腺特異抗原(PSA)のベースラインからの上昇は、テストステロン群のほうが大きかった(0.20±0.61ng/mL vs.0.08±0.90ng/mL、p<0.001)。また、テストステロン群では、心房細動(3.5% vs.2.4%、p=0.02)、急性腎障害(2.3% vs.1.5%、p=0.04)のほか、肺塞栓症(0.9% vs.0.5%)の発生率が高かった。
著者は、「メタ解析では、静脈血栓塞栓イベントとテストステロンには関連がないことが示されているが、今回の知見は、過去に血栓塞栓イベントを発症した男性ではテストステロンは慎重に使用すべきとする現行の診療ガイドラインを支持するものであった」としている。
(医学ライター 菅野 守)