テストステロン欠乏により生じる病態と言えば男性更年期(疲れやすい、肥満、うつ、性欲低下…)をまず思い浮かべるが、実は、加齢による骨格筋量の減少(サルコペニア)の原因の1つであり、脂肪肝の発症にも深いかかわりがあるというー。6月17~19日に大阪で開催された第22回日本抗加齢医学会総会のシンポジウム「男性医学」において、濱口 真英氏(京都府立医科大学 内分泌・代謝内科学助教)が『脂肪肝とテストステロン』と題し、骨格筋量の低下とテストステロン欠乏、そして脂肪肝への影響について講演した。
肥満のない脂肪肝なら起こる可能性-サルコペニア
肝臓と筋肉には肝筋連関というつながりがあり、2型糖尿病を例にとると、高血糖はもちろんのこと、過栄養による脂肪肝や運動不足による筋肉量低下が引き金となり糖尿病を発症する。濱口氏は「肝筋連関のせいで肝臓と筋肉が互いに足を引っ張り合ってさらなる悪循環を来し、サルコペニアが脂肪肝を助長する」と説明。これを立証するものとして、『脂肪肝と肥満と糖尿病の関係性』に関する研究
1)を紹介し、「肥満でなくても脂肪肝があればサルコペニアのリスクはある。過体重を伴わない脂肪肝は、サルコペニアがあることで見掛け上の体重が減少していると考えられる」と解説した。
脂肪肝指数はテストステロン高値群より低値群で高い
サルコペニアにも負の影響をもたらす脂肪肝。近年では単なる内臓脂肪ではなく、筋肉、心臓、肝臓、膵臓の4つの部位に主に発生し、さまざまな細胞に障害を及ぼす “異所性脂肪蓄積”の1種として重要視されている。さらに、脂肪肝は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へ進展することもあるため「NASHのリスク因子である男性更年期(LOH症候群)やサルコペニアを早期に改善させる必要がある」と同氏は指摘した。実際に国内の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の年代別割合グラフ
2)を見ると、男女ともに20代から増加し50~60代でピークを迎え、とくに男性の場合は50代をピークに逆U字を描く傾向にあり、「肝筋連関に加えて、血清テストステロンの低下が脂肪肝に影響しているのではないか」とコメントした。また、海外データ
3)で、脂肪肝指数はテストステロン高値群より低値群で高く、トリグリセリド/HDL-C比はテストステロン高値群より低値群で高いことが示唆されている。
同氏はそれを裏付けるものとして、去勢モデルマウスとテストステロン補充に関する研究
4)を示し、これによると去勢モデルにテストステロンを補充することで骨格筋量の回復、耐糖能異常の改善がみられた。さらにエストラジオールを補充することで最も高い改善が見られ、脂肪肝も抑制することが示された。ただし、「実臨床においてLOH症候群でサルコペニアと糖尿病を伴う受診者にエストラジオールを補充することの是非については議論がある」ため、同氏らはエストラジオールの代替として大豆イソフラボンおよびエクオールの可能性について検討を深めている。
最後に同氏は以上をまとめ、「テストステロンの補充で骨格筋量が回復しさらにエストラジオールの補充が脂肪肝の改善に効果を有することから、エストラジオールの代替として大豆イソフラボンを補充することは脂肪肝・サルコペニア・糖代謝改善に期待できるのではないか。今後、研究結果が待たれる」と締めくくった。
(ケアネット 土井 舞子)