電位依存性ナトリウム(Na)チャネルNav1.8の選択的阻害薬であるVX-548は、高用量においてプラセボと比較し、腹壁形成術ならびに腱膜瘤切除術後48時間にわたって急性疼痛を軽減し、有害事象は軽度~中等度であった。米国・Vertex PharmaceuticalsのJim Jones氏らが、2件の第II相無作為化二重盲検比較試験の結果を報告した。電位依存性NaチャネルNav1.8は、末梢侵害受容ニューロンに発現し、侵害受容シグナルの伝達に寄与していることから、選択的Nav1.8阻害薬VX-548の急性疼痛抑制効果が研究されていた。NEJM誌2023年8月3日号掲載の報告。
腹壁形成術および腱膜瘤切除術後の急性疼痛患者で、VX-548vs.プラセボを評価
研究グループは、(1)腹壁形成術(軟部組織の痛みのモデル)、または(2)腱膜瘤切除術(外反母趾手術)(骨の痛みのモデル)術後の急性疼痛を有する患者を対象とした2件の第II相無作為化二重盲検比較試験を実施した。
(1)の腹壁形成術試験は2021年8月~2021年11月に米国内の7施設において、腹壁形成術終了後4時間以内で、数値的疼痛評価尺度(Numeric Pain Rating Scale[NPRS]、スコア範囲:0~10、数値が高いほど痛みが強いことを示す)のスコアが4以上、および口頭式疼痛評価尺度(Verbal Categorical Rating Scale[VRS]、痛みが「ない」から「重度」まで4段階で評価)で中等度または重度の痛みを有する18~75歳の患者を、高用量群(VX-548を100mg経口負荷投与後12時間ごとに50mgを維持投与)、中用量群(VX-548を60mg経口負荷投与後12時間ごとに30mgを維持投与)、実薬対照群(酒石酸水素ヒドロコドン5mg/アセトアミノフェン325mgを6時間ごとに経口投与)、プラセボ群(プラセボを6時間ごとに経口投与)に1対1対1対1の割合で無作為に割り付け、48時間投与した。
(2)の腱膜瘤切除術試験は2021年7月~2022年1月に9施設において、術後1日目の膝窩坐骨神経ブロック除去後9時間以内に(1)と同様の痛みを有する18~75歳の患者を、高用量群、中用量群、低用量群(VX-548を20mg経口負荷投与後12時間ごとに10mgを維持投与)、実薬対照群、プラセボ群に2対2対1対2対2の割合で無作為に割り付け、48時間投与した。
主要エンドポイントは、NPRSスコアに基づく疼痛強度差(SPID)の48時間にわたる時間加重合計(SPID48)とした。NPRSスコアは、初回投与後0.5、1、1.5、2、3、4、5、6、8、12時間後、以降は4時間ごとに合計19回測定した。主解析では、VX-548各投与群とプラセボ群を比較した。
VX-548高用量群で術後急性疼痛が軽減
(1)腹壁形成術試験には計303例、(2)腱膜瘤切除術試験には計274例が登録された。
時間加重SPID48のVX-548高用量群とプラセボ群の最小二乗平均群間差は、腹壁形成術後で37.8(95%信頼区間[CI]:9.2~66.4)、腱膜瘤切除術後で36.8(95%CI:4.6~69.0)であった。両試験とも、中用量群または低用量群はプラセボ群と同様の結果であった。
有害事象はほとんどが軽度~中等度であり、主な有害事象は(1)腹壁形成術試験では悪心、頭痛、便秘、(2)腱膜瘤切除術試験では悪心および頭痛であった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)