妊娠30週未満の出産前の妊婦に、硫酸マグネシウムを静脈内投与すると、児の死亡と脳性麻痺のリスクが低下することが知られているが、30週以降の効果は不明とされていた。ニュージーランド・オークランド大学のCaroline A. Crowther氏らは、「MAGENTA試験」において、妊娠30~34週に硫酸マグネシウムを投与しても、プラセボと比較して、2年後における児の脳性麻痺のない生存の割合は改善しないことを示した。研究の詳細は、JAMA誌2023年8月15日号に掲載された。
オーストラリアとニュージーランドの無作為化臨床試験
MAGENTA試験は、オーストラリアとニュージーランドの24の病院で実施された無作為化臨床試験であり、2012年1月~2018年2月に参加者の登録を行った(オーストラリア国立健康・医学研究評議会などの助成を受けた)。
対象は、妊娠30~34週の期間に早産のリスクがあり、単胎または双胎妊娠で、出産が予定されているか、24時間以内に確実に出産が予測される妊婦であった。被験者を、硫酸マグネシウム(4g)またはプラセボを30分で静脈内投与する群に無作為に割り付けた。
主要アウトカムは、児の補正年齢2歳時までの死亡(死産、退院前の生児の死亡、退院後の補正年齢が2歳になる前の死亡)または脳性麻痺(小児科医の評価による運動機能の喪失、筋緊張と筋力の異常)とした。副次アウトカムは、妊婦と児の健康を評価する36の項目であった。
1,433例(平均年齢30.6[SD 6.6]歳、白人67.4%)の妊婦を登録し、硫酸マグネシウム群に729例、プラセボ群に704例を割り付けた。その児1,679例(マグネシウム群 858例、プラセボ群821例)のうち1,365例(691例、674例)が主要アウトカムの解析に含まれた。
イベント発生率(3.3% vs.2.7%)は予測より低い
補正年齢2歳時の死亡または脳性麻痺の発生率は、硫酸マグネシウム群が3.3%(23/691例)、プラセボ群は2.7%(18/674例)であり、両群間に有意な差を認めなかった(リスク差:0.61%[95%信頼区間[CI]:-1.27~2.50]、補正後相対リスク[RR]:1.19[95%CI:0.65~2.18]、p=0.57)。
死亡は、硫酸マグネシウム群が1.4%(12/837例)、プラセボ群は0.9%(7/796例)で認められ(リスク差:0.48%[95%CI:-0.62~1.58]、補正後RR:1.50[95%CI:0.58~3.86]、p=0.40)、脳性麻痺は、それぞれ1.6%(11/679例)、1.7%(11/667例)で発現し(-0.03%[-1.39~1.33]、0.98[0.43~2.23]、p=0.96)、いずれも両群間に有意差はみられなかった。
出生時の入院期間中の新生児では、プラセボ群に比べ硫酸マグネシウム群で呼吸窮迫症候群(34%[294/858例]vs.41%[334/821例]、補正後RR:0.85[95%CI:0.76~0.95]、p=0.01)、慢性肺疾患(5.6%[48/858例]vs.8.2%[67/821例]、0.69[0.48~0.99]、p=0.04)などの発生率が低かった。
出産時の入院期間中の妊婦では、重篤な有害事象は発現しなかったが、注射による有害事象の頻度はプラセボ群に比べ硫酸マグネシウム群で高かった(77%[531/690例]vs.20%[136/667例]、補正後RR:3.76[95%CI:3.22~4.39]、p<0.001)。注射による主な有害事象は、悪心、嘔吐、ほてり、注射を受けた腕の痛み、口腔乾燥、めまい、霧視などであった。
また、帝王切開による分娩を経験した妊婦は、硫酸マグネシウム群のほうが少なかった(56%[406/729例]vs.61%[427/704例]、補正後RR:0.91[95%CI:0.84~0.99]、p=0.03)。一方、産後に大出血を発現した妊婦は、硫酸マグネシウム群で多かった(3.4%[25/729例]vs.1.7%[12/704例]、1.98[1.01~3.91]、p=0.05)。
著者は、「妊娠30~34週での硫酸マグネシウム投与に効果がなかった理由は不明である」としている。また、「本試験では、死亡と脳性麻痺のイベント発生率が予測よりも低かったため、死亡または脳性麻痺のリスクにおける、小さいものの潜在的に重大な差の検出力が不足していたと考えられる」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)